誰もが安心できる? 身体障害者のリフト、万博開幕直前に設置

2025/04/19 09:00 

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 「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマを掲げる大阪・関西万博。視覚障害者だけでなく、身体障害者にとっても会場は安心できる環境だといえるだろうか。

 開幕まで50日を切った2月下旬、会場内のトイレに重度障害者向けの天井走行リフトの設置を求める要望書が提出された。バリアフリーの街づくりを進めるNPO法人「ウィーログ」(東京都千代田区、織田友理子代表)など3団体が、万博を所管する経済産業省に出した書面は「バリアフリー環境の整備は急務であり、国際的な評価にも大きな影響を及ぼす」と記され、危機感がにじんでいた。

 天井走行リフトは、トイレや入浴の時に障害者や高齢者を持ち上げるために使う。天井に固定したレールに沿って動かす。本人や介助者の負担軽減に役立つ。

 ウィーログの織田洋一事務局長(44)は、ドバイ万博(2021~22年)を訪れ、リフトなど設備の充実ぶりを目の当たりにした。しかし24年秋、大阪・関西万博の会場内のトイレにリフトが1台も設置されないことが分かり、万博協会に働きかけた。その後も進展はなく、「トイレが使えないことを理由に、障害がある人が万博に参加できないのは悲しい」と考え、国会議員を通じて国に要望書を出した。

 ようやく万博協会も動き、開幕直前になり、床面のキャスターで動く床走行式リフトが会場内のトイレ2カ所に設置された。織田事務局長は「リフトの設置には意義がある。万博協会が課題を認識し、改善した経緯を含めて、未来への希望にはなる」と評価した。

 バリアフリーに対する万博協会の姿勢が問われたのは、リフトの問題だけではない。会場整備が始まる前の21年7月、万博協会はユニバーサルデザインのガイドラインを公表した。しかし、障害者団体にヒアリングをしておらず、直後に「東京オリンピック・パラリンピックの設備基準より後退している」などと批判が相次いだ。その8カ月後、エレベーターの入り口の最小幅を80センチから100センチに改めるなど、全面的な改訂版を出した。

 万博協会の関係者は「(ガイドラインの時に)お叱りを受けてから、可能な限り対応しようと取り組んできた。それでも(リフトの整備は)漏れてしまった」と釈明した。

 万博の開幕後、来場者に聞くと、改善すべき点も見えてきた。奈良県から訪れた70代の夫婦は、西ゲートで車椅子を借りて入場し、東ゲートから出ようと計画していたが、スタッフに西ゲートで返却するように指示されたという。「会場を横断して車椅子を返すのは大変」と訴えた。

 ソフト面の充実は進みつつある。ボランティアが視覚・身体障害者に付き添って案内する「会場サポート」が17日に始まった。一般社団法人「関西イノベーションセンター」などが運営する「LET’S EXPO」が実施。事前予約制で、ボランティア2人の交通費に充てる4000円が必要だが、利用者から「助かった」という声も聞こえた。

 自らも車椅子ユーザーで、障害者団体「DPI日本会議」の副議長を務める尾上浩二さんは「ユニバーサルデザインは継続的に改善していくものだ」との見方を示す。開幕の時点で万全にするのが理想だとしつつも「万博協会は当事者からの指摘を受け止めて、半年間の期間中に改善すべきだ。エレベーターの増設などは難しいかもしれないが、点字ブロックや視覚障害者向けの音声案内などを充実させることはできる。来場者の誰もが楽しめる未来社会の形を示してほしい」と述べた。【藤河匠、高良駿輔】

毎日新聞

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