広告トラック、規制は難しい? 専門家が読み解く現行規制の趣旨

2025/05/01 07:15 

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 風俗求人サイトなどを宣伝する広告宣伝車(アドトラック)への苦情が相次いでおり、福岡市が実態調査に乗り出す。広告宣伝車を巡っては自治体が条例などで規制しているが、対応が難しい実情もある。広告宣伝車の規制はどうあるべきなのか。法的な観点から東洋大の大野悠介准教授(憲法学)に話を聞いた。【聞き手・平川昌範】

 ――アドトラックの規制が難しい理由は。

 ◆屋外広告物規制の特徴が背景にあります。昨今問題となっているアドトラックは風俗求人サイトなどを内容とするものだと思います。しかし、そもそも屋外広告物の規制は基本的に広告の内容に着目しない「内容中立」の規制なのです。

 また、現行の屋外広告物規制は明治時代の広告物取締法が設定していた「安寧秩序若しくは風俗」という目的をあえて除外して「良好な景観を形成し、若しくは風致を維持し、又(また)は公衆に対する危害を防止する」ことを目的としました。このため公序良俗に反する広告内容であることを理由に規制するのは法の趣旨に反してしまうのです。

 ――東京都では「都外ナンバー」の車両に条例を適用できないという課題から条例改正につながりました。

 ◆都外ナンバーに適用しないというのは、都道府県ごとに規制があまりにバラバラにならないように国が示した条例制定のガイドラインに基づいて都条例で定められていたためです。しかし、それでは規制の緩やかな自治体で許可を受け、他の自治体に移動すればいいことになります。東京都で都外ナンバー車も規制対象にする動きが出たのはそのためです。

 固定された看板や同一自治体地域内を走るタイプの乗り合いバスとは異なり、アドトラックは自由に移動できます。こうした「動き回る広告」に屋外広告物規制はうまく対応できていません。

 ――内容規制や域外車両への規制も課題がありますね。どうすればいいのでしょうか。

 ◆「不快だ」と感じる人の気持ちはよく分かりますが、行き過ぎた規制は危険です。表現の自由に関わりますし、経済的不利益にもつながります。慎重でなければなりません。

 大事なのは規制の目的と手段が一貫しているかどうかです。こうしたアドトラックを放置することで何が害されるのかを考えてください。良好な景観を害するというのなら落ち着いた色合いにすればいいのです。交通への妨害を防ぐのであればキラキラ光っていなければいいことになります。これならば屋外広告物条例の趣旨に反しないでしょう。

 他方で、性風俗業界に誘うような広告を青少年に見せることが健全な育成を阻害すると考えるなら、条例の趣旨を踏まえると青少年保護条例などによる規制の方が適しているでしょう。有害図書のゾーニングに似た話になります。アドトラックのような「動き回る広告」のゾーニングはあまり現実的ではないかもしれませんが。

 いずれにしても、市民が自分たちの街をどういう街にしたいかに関わってきます。そもそも広告は目立たなければ意味がないということを前提にしつつ、法や条例の趣旨を理解し、冷静に議論することが重要でしょう。

毎日新聞

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