性暴力の背景にある日本の社会構造 弁護士が見る旧ジャニーズ問題
旧ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏(2019年に87歳で死去)による性加害問題を告発する番組を英BBCが一昨年春に報道して2年が過ぎた。この問題をめぐって「マスメディアの沈黙」が指摘されたように、毎日新聞はほとんど報道してこなかった。性暴力問題に詳しい中野麻美弁護士は「単に被害事実を伝えるだけでなく、性暴力が後を絶たない背景にはどんな社会構造があるのかを掘り下げ、社会に一石を投じる。そうした役割が新聞にあることを記者は認識すべきだ」と指摘する。
――ジャニー氏の性加害問題は、元ジャニーズのタレントだった北公次さんが1988年に著書で被害を告白するなど、以前からありました。どのように見ていましたか。
◆北さんの告白に関する情報は目に留まらなかったけれども、それが大きく報じられていれば、ジャニー氏の加害を「いまの日本の社会構造が個人の尊厳を否定している」という視点で捉えていたと思います。
少年への性加害について、(過去の一部の週刊誌のように)ジャニー氏が「何をしたか」という外形的な性的接触に目を向け、「こんな性癖がある」などのスキャンダルを暴く意識で記事を組み立てると、個人の問題に終始し、それがどれほど深刻な問題であるかが読者、視聴者には伝わりにくくなります。
――社会構造とはどのようなことを指すのでしょうか。
◆芸能界でいえば、プロダクションや制作会社など、エンターテインメント業界の重層的な契約関係の中で、番組や企画を差配する実力者がいて、舞台や歌など芸術を目指す人たちは非常に弱い立場に置かれている。そうしたジェンダー(社会的につくられた性差の捉え方)に基づく力関係ですね。だから、演技指導で必要以上に体を触られる、宴会で接待を強要されるなど、不快に感じることがあってもその気持ちを、ぐっとのみ込んでしまう。周囲からも「上手に対処するのがプロだ」と言われ、被害を自分の内側に秘めてしまうのです。
――ジャニー氏の性加害を毎日新聞がほとんど報道してこなかったことを検証したところ、当時関わった記者らは「少年への性加害問題に対する認識が希薄だった」「民事裁判では真実相当性が認められたが、刑法上は何ら罪に問われていないので追及しづらかった」などと話しています。
◆先ほど述べたような、性加害の背景にある問題を探ろうとするマインドが記者の中に醸成されていなかったのでしょう。何が人権侵害を引き起こし、なぜそれが個人の問題にされてしまうのか、構造的な要因に気づいていなかった。
――ご自身は性暴力やメディアをめぐる裁判に関わっています。報道機関の女性記者が長崎市の幹部から性暴力を受け、市に損害賠償を求めた訴訟の原告代理人を務め、勝訴(22年5月末)に導きました。
◆長崎事件のポイントは、市幹部による性暴力は職務との関連性がある、すなわち「職権の乱用」だと認定されたことです。こうした性暴力は、メディア、創作の現場、民間企業や団体など、どこでも起こり得ます。しかし、被害者の心身に深刻な影響を加え、そのトラウマが全て身体と記憶の中に埋め込まれてしまうことが、必ずしも共通認識になっていません。
私は法廷で加害の様子を証言してもらうことを極力、避けます。「どんな行為をされたか」など、加害の内容をつまびらかにするアプローチより、仕事上の関係や情報を利用して被害者をどのようにコントロールしたのか、性暴力がその人の健康やキャリアにどんなダメージを与えたのか、そうした被害の深刻さを私は重視しています。そうでなければ、「どうして抵抗しなかったのか」などと追及されて被害者をさらに傷つけてしまう。
新聞には世論を動かす力があると認識してほしい。被害者を傷つけない、インターネット上での中傷など「2次加害」を生まない記事の書き方、伝え方をすることが新聞にも欠かせないのではないでしょうか。【聞き手・明珍美紀、菊地香】
◇なかの・まみ
1951年生まれ。75年北海道大法学部卒。79年弁護士登録(東京弁護士会)。NPO「派遣労働ネットワーク」理事長。日本労働弁護団副会長。著書に「新しい労働者派遣法の解説」「ハラスメント対策全書」(編著)など。
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