戦中は軍国主義と結び付き、戦後はA級戦犯合祀 靖国問題って何?

2025/06/05 11:00 

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 旧日本軍の戦死者をまつる靖国神社と自衛隊が接近し、自衛官が戦死した場合は合祀(ごうし)するよう求める声も聞こえてきます。

 一方、こうした動きについて、憲法の「政教分離」に抵触するのではないかという指摘があります。

 そもそも靖国神社を巡っては、何が問題となっているのでしょうか。【宮城裕也】

 Q 靖国神社ってどんなところなの?

 A 東京都千代田区九段北にあり、明治維新の志士や戊辰(ぼしん)戦争で亡くなった官軍の兵士をまつった1869年創建の「東京招魂社(しょうこんしゃ)」が前身です。79年に「靖国神社」と改称し、日清・日露戦争や太平洋戦争などで亡くなった約246万6000人が「英霊(えいれい)」として合祀されています。

 Q 英霊を合祀するってどういうこと?

 A 英霊は死者の霊の尊称で戦死者の霊を指します。合祀は複数の霊を「合わせ祀(まつ)る」という意味です。靖国神社では、戦死者の名前などを「霊璽簿(れいじぼ)」と呼ばれる帳面に記載して、儀式を執り行って納めることで合祀しています。

 Q どんな人がまつられているの?

 A 軍人や、軍人以外で軍に所属する「軍属」が中心ですが、動員された看護要員や軍需工場で空襲に遭った学徒、徴用された朝鮮人らも「軍の要請に基づいて戦闘に参加した」としてまつられています。本人や遺族の意向に関係なくまつられるため、反発する遺族もいます。

 Q 何が問題となっているの?

 A 戦前・戦中は軍国主義と結び付けられ、国民を戦争に駆り立てるために利用されました。多くの兵士が「靖国で会おう」を合言葉に敵陣に突撃するなどして死んでいったのです。その靖国神社に、戦争を計画・指導したとされる東条英機元首相らA級戦犯14人が1978年に合祀されたことが問題となっています。

 Q 政治家の参拝もよく話題に上るね。

 A 85年の中曽根康弘首相の公式参拝以降、首相の参拝がたびたび外交問題になります。中国や韓国は「靖国神社は軍国主義の象徴」とし、「日本は歴史問題で誤った態度を取っている」と批判します。国内でも「政教分離に反する」として裁判が起こされました。

 Q 靖国神社とは別の追悼施設をつくる話も聞いたことがあるけど。

 A 戦後に宗教法人化された靖国神社は「一度まつられた霊は分けられない」としてA級戦犯の分祀(ぶんし)を認めていません。2001年の小泉純一郎首相の参拝に国内外から反発の声が上がり、官房長官の私的懇談会が「国立の無宗教の恒久的施設が必要」とする報告書をまとめました。ところが、反対意見もあり議論は立ち消えとなったまま現在に至っています。

毎日新聞

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