国分太一さんの降板発表 「意味のない会見」という批判は想定内?

2025/06/21 09:00 

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 「過去にコンプライアンス上の問題行為が複数あった」として、人気アイドルグループ「TOKIO」メンバーの国分太一さん(50)がバラエティー番組「ザ!鉄腕!DASH!!」を降板することになった。日本テレビの福田博之社長は20日の記者会見で「プライバシー保護の観点から、行為の詳細については申し上げられない」と繰り返し、全容は分からないままだ。

 専門家は会見をどう見たのか。放送倫理・番組向上機構(BPO)青少年委員会で委員も務める立命館大学の飯田豊教授(メディア論)に話を聞いた。

 ◇報じない判断がメディア不信に

 ――今回の会見をどうご覧になりましたか。

 ◆今回、日テレは当事者として知り得たことを全て明らかにするわけではなく、線引きして会見していました。会見で福田社長は、「伝えないことの説明責任」を果たそうと苦心しているように見えました。

 「なぜ伝えないのか」という説明責任については、知っているのに伝えないマスメディアの姿勢が選挙報道などで批判され、真実を隠蔽(いんぺい)していると言われるようになってきたここ1、2年で、厳しく問われるようになってきています。

 昔であればマスメディアが、しかるべき配慮に基づいて「報じない」と判断した事柄について市民は知るすべがありませんでした。一方、現在はインターネットで検索すれば周辺情報が出てくるため、報じないことがメディア不信にもつながりかねず、どう扱うか議論がなされてきているところだと思います。

 SNS(交流サイト)では、既に市民からの情報提供を呼び掛ける投稿も出てきています。これは予測できた展開のはずで、多くを語らないことで臆測が広がり、虚報や2次被害につながりかねないことへの道義的責任に言及していれば、もう少し違った印象になったのではと感じます。

 ――5月27日に覚知したものの、調査をしていたためにこのタイミングになったとの説明でした。

 ◆(元タレントの)中居正広さんによるフジテレビの女性アナウンサーへの性暴力問題で、フジテレビのガバナンス体制が問題になったばかりです。今回は臨時の取締役会も開くなど、ガバナンスに関しては3週間の間でスピーディーに対応していたという印象で、フジテレビ問題の教訓が生きていると感じました。

 ◇バッシングにつながる可能性も

 ――「プライバシー保護」を理由に、全容が明らかにならない会見でした。

 ◆苦渋の判断というか、日テレにとっては「やるも地獄やらぬも地獄」ということだと思います。

 フジテレビの問題がなければ開かれなかった会見だと思いますが、やらなかったらやらないで「日テレが隠蔽」など、何らかの形で関与したのではという臆測を呼ぶことは避けられなかったと感じます。

 全容は分かっていませんが、「どうも日テレは事案の責任を負う立場ではないらしい」という会見内容でした。そうではない可能性を払拭(ふっしょく)できたわけではありませんが、フジテレビの企業風土が厳しく批判された直後のことですから、完全に口をつぐめば日テレの関与や隠蔽に対する疑念はもっと広がったはずで、だからこそ「意味のない会見」という批判を甘んじて受け入れる決断をしたのだと思います。

 ――プライバシーに抵触しない伝え方はなかったのでしょうか。

 ◆事案の内容が分からないのでなんとも言えませんが、国分さんは有名な方なので、事案の「種類」を指摘するだけで被害者が分かってしまうということはあり得ると思います。フジテレビの問題が発覚した時も相手女性へのバッシングが起きたので、弁護士などの意見も踏まえて、プライバシー保護を徹底するという判断になったのではないでしょうか。

 そもそも被害者がいるのかも分かりませんが、日テレに情報提供した人など、事案に関連した人がバッシングを受けることは十分に想像されます。

 ――フジ・中居さんの問題では被害女性へのバッシングが起きました。こうした問題を伝える難しさはどんな点でしょうか。

 ◆社会的なコンセンサスが取れていない点で難しさがあると思います。

 今回で言えば日テレの発表によって事案の関係者が特定されてバッシングされることもあり得るし、第三者による報道でバッシングが発生する恐れもあります。

 市民の知る権利とプライバシー保護との兼ね合いは難しく、報道機関が個別具体的に判断せざるを得ないのが実情です。

 ◇遅れている人権施策、改善を期待

 ――民放各社がガバナンス強化を進めるなかでの事案でした。今の放送業界をどうみていますか。

 ◆フジテレビの問題がなければ、社長自らが出てくるのではなく、もっと違う形の発表になっていた可能性が高いと思います。

 各局が厳格に定めている放送基準や番組基準は、主として番組の表現に対して適用されるもので、企業としての人権施策については遅れていました。一連の事案に対する反省を踏まえて改善されることを期待しています。

 ――国分さんが旧ジャニーズ事務所のタレントであることについての影響はあるのでしょうか。

 ◆報道自体には差が無いと思います。一方で福田社長は、自身が会見した理由として「30年続く愛された番組における降板だったから」と話していましたが、会見に直結している理由とは思えず建前だと感じます。他の番組だったとしても、国分さんが無期限活動休止するほどの重大なコンプライアンス違反であるならば、同じ対応になった可能性は高いと思います。【山本萌】

毎日新聞

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