「裁判で真実明らかに」 参院選控え慰霊静かに 安倍氏銃撃から3年

2025/07/08 20:55 

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 安倍晋三元首相が参院選の応援演説中に銃撃され死亡した事件から8日で3年。現場となった奈良市の近鉄大和西大寺駅前には献花台が設けられた。今年は参院選の投開票を20日に控え、選挙期間中に初めて迎える命日となった。安倍元首相を殺害したとして殺人罪などに問われている山上徹也被告(44)の裁判員裁判の初公判が10月28日に開かれることも決まった。昨年までと大きく違う状況で迎えた慰霊の日に、訪れた人は何を思ったのか。

 3年目の献花は多くの警備員や警察官が見守る中、静かに始まった。午前9時の受け付け開始前から次々と花が手向けられた。平日だけに学校を休んで訪れる人も。大阪府豊中市の中3の男子生徒(15)は「あえて学校を欠席して注目を集め、クラスメートに事件について知ってほしかった」と話し、「民主主義の国で、暴力で政治を変えることは許されない。何かを変えたいなら言論に訴えるべきだ」と力説した。

 現場は大和西大寺駅北口から徒歩1分足らず。同駅付近は過去の国政選挙で多くの候補者が演説場所に選んでおり、選挙中は立候補者が氏名を連呼する声がひっきりなしに聞こえる地だ。今夏の参院選でも候補者の一部が第一声の演説場所に選んだ。

 だが、8日は参院選の奈良選挙区の候補者は近くを訪れず、選挙での支持を呼び掛ける声は聞こえなかった。献花台を設けた任意団体の担当者は「各陣営が配慮してくれたのだろう」と話した。

 参院選の影響などもあって8日に献花に訪れた国会議員は3人。昨年同日の32人から大幅に減った。昨年まで8日に訪ねていた国民民主党の玉木雄一郎代表の訪問は7日の受け付け終了後だった。

 24年には現場で若い男性2人が「安倍晋三の追悼を許さない」と叫び始め、警察官がすぐに制止する事案があったが、今年は大きなトラブルには見舞われなかった。県警によると警備は昨年と同様の運用で、人数も同水準だった。正午過ぎ、NHK党首の立花孝志氏が近くの路上で安倍氏への哀悼の意と感謝を伝える街頭演説を始める場面はあったが、献花台の警備に当たっていた警察官が選挙カーの前に移動し、演説終了まで周囲を警戒。混乱はなかった。

 警察は事件を受け、選挙の警備態勢を全国で強化した。3年前に事件が起きた現場で有権者はどう感じたのか。大阪市の大学生、新武大悟さん(22)は「警備体制は厳しくなった。これでは有権者との距離が離れ、政治家が市民にとって遠い存在になる」と話した。

 事件の初公判まであと100日あまり。山上被告は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による献金被害に苦しみ、事件を起こしたとされる。だが、山上被告本人が公の場で経緯を語ったことはまだなく、法廷での真相究明を期待する声も高まる。

 毎年慰霊に訪れているという奈良市の無職、宮井公(いさお)さん(79)は「被告には言葉で表せない気持ちがある。真実は一つしかないと思うので、裁判ではしっかりと明らかになるようにしてほしい」と話した。山形県から訪れた66歳男性は「報道を見る限り、山上被告は相当苦労したのだろう」としつつ「どんなことがあっても人の命を奪ってはいけない。司法は適正な判断をしてほしい」と語った。【田辺泰裕、木谷郁佳、松田学、喜多瑞輝】

毎日新聞

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