倒れた安倍氏に「総理、総理」 応援受けた佐藤参院議員が当時を証言

2025/10/29 21:12 

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 安倍晋三元首相銃撃事件で起訴された山上徹也被告(45)の裁判員裁判が29日、奈良地裁(田中伸一裁判長)であり、検察側証人として参院議員の佐藤啓官房副長官が出廷した。安倍氏は佐藤氏の応援演説中に銃で撃たれており、佐藤氏は「暴力による言論の封殺は民主主義への挑戦で、許されない」と事件の受け止めを語った。

 佐藤氏は2022年の参院選奈良選挙区に自民党公認で立候補した。安倍氏は選挙期間中の22年7月8日、佐藤氏を応援するため、奈良市の近鉄大和西大寺駅前に駆け付け、山上被告の手製銃で撃たれたとされる。

 佐藤氏の証言によると、現場は交通の結節点で、市民らが集まりやすく、演説会場として頻繁に使われる場所だった。事件当時も300~500人の聴衆がいたという。

 佐藤氏は安倍氏から1メートルも離れていない距離で演説を聞いていた。その時、「これまでに体験したことのないような大きな音が2回した」。1度目の音で身をかがめ、2度目で周囲からの「危ない」との声を聞き、後ろを振り返ると、安倍氏が地面に倒れていたとした。

 安倍氏はあおむけの体勢で目を開いていた。「一見して大変厳しい状況にある」と感じ、「総理、総理」と呼び掛けたものの、全く反応はなかったという。佐藤氏は「なんでこんなことが起きるんだ、なんでこんなことをするんだと大声で叫んだことを覚えている。怒りと悲しみが混ざり、涙を流しながらしばらくその場にいた」と回想した。

 事件について「国政選挙の最中に現職の国会議員を銃撃することは言論を暴力で封殺しようとするものだ。数百人が危険に遭う可能性があった」と述べ、自分の応援演説中に安倍氏が死亡したことについて「自責の念を感じた。(安倍氏を慕っている)多くの皆さんに申し訳ないという気持ち」と心情を吐露した。

 選挙期間中に安倍氏が佐藤氏の応援に入ったのは事件時が2回目で、他候補の追い上げが激しいとみられていたことが理由だったという。安倍氏は応援弁士としての人気が高く、佐藤氏は「全国で取り合いになる。2度応援に来ることは基本的にあり得ず、確かな情報かと聞き直した。急きょ応援が決まったという認識だ」と証言した。【木谷郁佳、林みづき、田辺泰裕、岩崎歩】

毎日新聞

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