トランプ氏の核実験指示に被爆地抗議 長崎市長「断じて容認できぬ」

2025/10/30 20:11 

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 トランプ米大統領が30日、国防総省に核実験を開始するよう指示したと明らかにしたことに対し、被爆地からは激しい怒りと抗議の声が上がった。

 2024年にノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表委員で広島県原爆被害者団体協議会理事長の箕牧智之(みまき・としゆき)さん(83)は「核兵器を使ったらどうなるかは広島、長崎の被爆者が一番よく知っている。核兵器は一発たりとも使ってほしくないし、作ってほしくない」と強調した。トランプ氏のコメントについて「アメリカが世界で優位に立つことを強調しようとしている」と感じたという。今月、来日した際に被爆地を訪れなかったことについても「最初から被爆の実相を知ろうとしていなかったからではないか」と批判した。

 15歳の時に被爆した広島市安佐南区の切明(きりあけ)千枝子さん(95)は「恐ろしい。私の友達もいとこも、けが一つないのに高熱を出し、血を吐いて亡くなった。核兵器がどんなに恐ろしいか、実態を知ってほしい」と話した。在日韓国人2世で、女学校1年の時に被爆した広島市西区の朴南珠(パク・ナムジュ)さん(93)は被爆後、乳がんや皮膚がんなどに苦しんだ。「後遺症は本当にひどく、家族を含めてずいぶん苦労した。核兵器によってどんな苦しみを受けて生きてきたか、トランプさんに言いたいくらいだ」と語気を強めた。

 平和記念公園(広島市中区)を訪れていた岡山県の女性会社員(31)は「核兵器を持つ国同士がけん制し合い、戦争を防げるという考え方があるが、核実験は絶対にしてはいけないと思う。日本の首相はそのことをしっかり訴えるべきだ」と述べた。

 米カリフォルニア州から旅行で広島を訪れた米国人女性(30)は「アメリカ社会は今、分断している。核兵器に反対する人もいるが、トランプ(大統領)を支持する人も多く、これからどうなるのか心配」と話した。そのうえで「核軍備増強に賛成する人こそ、広島に来て原爆の惨状を知ってほしい」と望んだ。

 長崎市の被爆者で元小学校教諭の山川剛さん(89)は「核実験に対する抗議は50年以上しているが、核保有国が核政策を維持する限り核実験はなくならない。(核実験開始の)意思を表明しただけでも到底許せない」と憤った。この日も小学生を前に被爆体験の講話をしており、「子供たちが核兵器を考える基礎となる講話を続けることこそ、トランプ氏に対する抵抗だ」と語気を強めた。

 被爆者団体「長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会」の川野浩一議長(85)は「我々の常識ではとても考えられない発言だ。我々はいかなる核実験にも反対する」と語った。

 長崎市の鈴木史朗市長は、この日の定例記者会見で「核兵器のない世界を実現するため血のにじむような努力を続けてきた被爆者や世界中の人々の思いを踏みにじる行為で、断じて容認できない」と批判し、指示の即刻撤回を求めた。

 日本被団協の浜住治郎事務局長も30日、「核実験の実施表明に強く抗議する」との談話を発表した。

 談話では、核実験の実施は米国も参加する核拡散防止条約(NPT)で義務づけられた核軍縮に逆行すると指摘。「核兵器のない平和な世界を求めて努力している各国に真っ向から反対するものであり、到底許すことはできない」と抗議した。【井村陸、武市智菜実、根本佳奈、尾形有菜、樋口岳大、稲垣衆史】

毎日新聞

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