背中さすって「よく言った」 大分の大火事、被災者が何より願うこと
11月に大分市佐賀関で起きた大規模火災の発生から18日で1カ月となる。被災地では、市営住宅など仮住まいへの転居が徐々に進み、避難生活は解消に向かいつつある。一方で住み慣れた地域を離れることになる住民は、これまでのコミュニティーを維持できるのか不安も募らせる。
◇不安がる6歳児を孫のように
「田中地区の人は息子を可愛がってくれる。つらいのに励まし合って、やっていけている。皆で暮らせるようにしてほしい。心からのお願いです」
避難所になっている佐賀関市民センターで2日にあった市の住民説明会。市営住宅への入居スケジュールなどの説明を聞き終えると、若い女性がマイクを手に訴えた。集まった約60人の住民からは拍手が起こり、女性の背中をさすって「よく言った」と声をかける人もいた。
大分県中部の沿岸に位置する旧佐賀関町は、2005年1月の合併で大分市に組み込まれた。佐賀関沖の豊後水道は好漁場で、ブランド魚「関あじ」「関さば」の水揚げ地として知られる。火災で住宅など187棟が焼け、約130世帯が被災した田中地区も古くからの漁師町だ。
説明会で発言した女性はこの地区で生まれ育ち、火災の約2週間前に実家近くに戻って暮らし始めたばかりだった。小学校への入学を来春に控えた6歳の息子との生活が落ち着く間もなく、自宅を焼け出された。避難所では不安がる息子を、高齢の住民らがまるで自分の孫のように、代わる代わる抱っこして慰めてくれた。
◇大切にしてきた結びつきの強さ
「家を見れば誰が住んでいるか分かった」。自宅が被災した会社員の森政徳さん(51)は、住民の結びつきの強さを強調する。
近年は若年層の流出が進み、約200人の住民の7割超が65歳以上で独居の高齢者も少なくない。「顔の見える関係」でコミュニティーを維持してきただけに、森さんは「一緒に生活できるようにするのが一番。ばらばらになるとどうなってしまうのか」と危惧する。
市によると、今も52世帯72人(17日正午時点)が避難所で生活しているが、年内の避難所解消を目指し、当面の仮住まいとして市営住宅54戸を確保した。住民自らが民間アパートなどの賃貸契約を結び、市が借り上げる「みなし仮設住宅」として入居することも可能で、原則2年入居できる。
ただ、市営住宅は14カ所に点在し、同じ住宅に入居できるのは最大8世帯まで。全54戸のうち半数以上の29戸は旧佐賀関町の外にあり、田中地区から20キロ以上離れた場所もある。
12日には27世帯に市営住宅の鍵が引き渡された。妻と老人ホームに避難している橋本元紀さん(84)は「みんな親戚みたいに仲が良く助け合える密接な関係。住んでいた近くに仮設住宅を建ててもらいたい」と望む。一方、市は「市営住宅の戸数が十分確保された。同じ住宅に複数の世帯に入居してもらうことで、コミュニティーを維持する」として仮設住宅の建設は見送る方針だ。
火災後に現地を視察した関西大の山崎栄一教授(災害法制)は「被災した住宅街に近い空き家を活用して入居してもらうなど、市は住民ファーストでコミュニティーや医療福祉サービスの維持に配慮すべきだ」と指摘。その上で「コミュニティーの喪失は被災者の心身の不調にもつながる。戸別訪問や定期的なサロンを実施し、住民を孤立させない支援が必要不可欠だ」と強調する。【山口泰輝】
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