原発再稼働巡り、直接投票避けた新潟県 県民感情にもたらす影響
7年半前に約束した「県民に」ではなく、知事与党会派が過半数を占める県議会に「信」を問うた新潟県の花角英世知事。そして「信任」の議決を得た花角氏は23日に上京し、政府に対し、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働容認を正式に伝える。この展開がもたらす今後の影響はどのようなものがあるのか。東北大大学院の青木聡子准教授(環境社会学)に話を聞いた。【木下訓明】
――「県民に信を問う」と述べてきた花角氏は、最終局面で県議会に自らへの信任・不信任を委ねた。
◆「だまされた」と感じる県民はいるだろう。政治不信、知事不信を招くのではないか。
再稼働の是非を県民が判断する直接投票が実現していれば、電力を使う関東の人たちに対して「消費者の責任」を生産地の側から問いかける絶好の機会になった。また東電に対しても一層の安全対策を迫る「圧力」をかける機会にもなり得た。
電力の消費地・関東と生産地・新潟県との間で受益と受苦の不均衡がこれまで続いてきた。直接投票が実現していれば、そうした状況に風穴が開き、不均衡が改善する可能性もあった。
――花角氏は直接投票を実施すると「分断を深めてしまう」と説明している。しかし再稼働に慎重・反対の人々は「多数決の結果は否定しない」と主張している。
◆直接投票を避けたことによって、逆に、賛成派と慎重・反対派との間の「しこり」を残すのではないか。
分断を生むという理由で、県民が直接判断する機会を奪ったのは、安易なやり方だ。分断を避けつつ、県民の直接判断の機会を設けることこそ、知事の仕事だったのではないか。力量不足、知事の職責を果たせなかったと評価されても仕方がない。
――慎重・反対派にとっては、納得する機会を奪われた。
◆「納得」という言い方は誤解を生む。説得して、納得してもらえば、それでいいわけではない。再稼働を受け入れたとしても、納得したとは言い切れないからだ。
環境社会学では、公正なプロセスを重視する「手続的正義」と利益と負担の公平な分配を重視する「分配的正義」という考え方がある。直接投票が実現すれば手続き的には納得するかもしれないが、リスク分配には納得いかないこともあるし、その逆もあり得る。
双方の納得を実現するのは難しいが、可能な限り均衡させる努力をしたのか否かが、花角氏に対して問われる。
――原発の再稼働には「地元の同意」が条件化され、多くの場合、知事がその最終決定権者になっている。
◆問題だと思う。知事は県民の直接投票で選ばれているので、県民の意見を代表する存在とは言える。しかし、知事選には福祉や経済などさまざまな争点があり、現職に投票した県民が原発再稼働に対するスタンスを評価したとは限らない。
花角氏は知事選で「県民に信を問う」と訴えた。その点に期待をして花角氏に票を投じた人もいるだろう。その期待を裏切ったことを「公約違反だ」と言っても、その責任を問う有効な仕組みはない。「次の知事選で問えばいい」という考え方もあるだろうが、その知事選も原発だけが争点ではない。そうした点からも、知事が地元同意の最終決定をするというのは問題だと思う。
――県民の直接投票を避けたのは、再稼働を既成事実化することで県民の「諦め」を狙ったという見方がある。
◆直接投票の実現を願った人たちには無力感だけが残る結果になったのかもしれない。「もしかしたら覆るかもしれない」と思ったのに、結局、再稼働が行われ、既成事実化がどんどん進む現実を目の当たりにする。「反対しても無駄」「運動をしても無駄」という感覚が県民に広がってしまうことは問題だ。大きな目で見たときに、おかしなことが起こっても、人々が声を上げない社会になってしまいかねない。
◇あおき・そうこ
仙台市出身。東北大大学院文学研究科博士後期課程修了。名古屋大大学院環境学研究科准教授を経て現職。専門は、環境社会学、社会運動論。著書に「ドイツにおける原子力施設反対運動の展開――環境志向型社会へのイニシアティヴ」(ミネルヴァ書房)など。
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