風化させないために 3・11で被災の母、10歳の息子へ伝えた経験
「広島の被爆者の話はもう聞けなくなってしまうんだって」。広島県福山市で暮らす保育士、日塔万貴さん(42)は2月、小学校で原爆について学んだ長男の凪朔(なぎさ)さん(10)の言葉に考えさせられた。「過去の悲惨な出来事も伝える人がいなくなると風化してしまう」。東日本大震災の発生から15年。これまで多くを語らなかった自身の経験を長男に伝え始めた。【井村陸】
◇できること、少しずつ
2011年3月11日午後2時46分、日塔さんは福島県郡山市のスーパーで買い物をしていたときに地震に襲われた。商品棚が倒れて、天井は崩れ落ち、子どもを探す母親の泣き声が響き渡った。自宅に大きな被害はなかったが、東京電力福島第1原発の事故の影響で、一時的に埼玉県に自主避難した。
震災前、地域のラジオ局の音楽番組でパーソナリティーを務めていた日塔さんは、震災後はニュース番組を担当した。「放射線の数値を伝えるだけでなく、亡くなったり行方不明になったりした方の情報を届けるときが本当にしんどかった」と振り返る。
日塔さんは「福島のためにできることをしたい」と、女性の悩みを聞く支援団体を立ち上げた。さらに、被災地を案内するツアーを企画する会社を設立するなど、地域で復興のために奔走した。
しかし、16年に凪朔さんが誕生してから、その気持ちが揺らぎ始める。
郡山市は政府が指定した避難指示区域には入らなかったが、凪朔さんが公園の草を触ったり、石を拾ったりすると、放射能に汚染されていないか気になるようになった。「放射能を気にせず子どもとのびのび過ごしたい」と、国内で最も福島から離れている沖縄県に母子で引っ越した。
沖縄で生活を続ける中、かつて訪れた広島を度々思い出した。震災から1年後、広島市で開催された福島と広島の若者の交流会に運営メンバーの一人として参加。福島の人たちが抱える悩みを真剣に聞いてもらい、気持ちが少し軽くなった。次第に広島に住みたいと思うようになり、凪朔さんが小学生になる22年4月、尾道市に移住し、その後福山市に移った。
今年2月、学校で広島の被爆について学んだ凪朔さんが、帰宅後にその内容を日塔さんに話した。被爆から80年が経過し、被爆者から体験を直接聞くことが難しくなってきていると改めて実感した。「震災も同じで、きちんと伝えなければなかったことになってしまう。10歳になった息子に、私の今までの経験を話してみよう」。地震直後の経験、この15年間の出来事や悩み、取り組んできた支援活動などについて、少しずつ伝えるようになった。
◇11日にイベント開催
11日には住民らと協力し、福山市沼隈町のレンタルスペースで東日本大震災15年の復興イベントを開く。食事をしながら被災や避難をした経験などを語り合う。凪朔さんらが中心となって会場で手作りのレモネードを販売し、売り上げは東日本大震災の被災地に送る。
日塔さんは「15年はあっという間の時間だった。あの日の教訓を生かせる場面があれば、自分にできることをしていきたい」と話した。
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