「違法民泊」減少も「迷惑民泊」急増 専門家「法規制強化を」
国家戦略特区で設置が認められる「特区民泊」の申請の大半が自治体審査を通過していた実態が明らかになった。国内最大の集積地である大阪市では、特区民泊の推進で「違法民泊」が激減した半面、苦情が相次ぐ「迷惑民泊」が増加の一途をたどる。事業者、利用者、地域住民のそれぞれが納得できる仕組みになり得るか。制度は岐路に立たされている。
大阪市には全国にある特区民泊8404施設のうち、94%が集中している。「食い倒れの街」として世界的に人気が高く、京都・奈良・兵庫へのアクセスも良好で、大都市の割に地価が安いといった理由から大阪の民泊需要はとりわけ高いとされる。
大阪市域ではインバウンド(訪日客)の増加が2010年代に顕著になり、無許可の違法民泊の存在が行政課題として浮上した。一方で、受け皿となる宿泊施設が足りないという事情もあった。そこで市が目を付けたのが、国家戦略特区法に基づく特区民泊だった。
市は18年4月に警察OBらで組織する「違法民泊撲滅チーム」を設置。18年6月には住宅宿泊事業法(民泊新法)も施行され、特区民泊や、民泊新法に基づく合法的な民泊運営への切り替えを事業者らに呼び掛けた。市によると、違法民泊が疑われる施設はピーク時には3000を超えていたが、施策の推進の結果、探すのが難しいほど減った時期もあったという。
違法民泊に代わって、目立つようになったのが迷惑民泊だ。25年には大阪・関西万博が開催されたこともあり、更なるインバウンド需要を見込んだ海外の事業者らがこぞって特区民泊を申請。行政による監視や指導が追いつかず、ゴミ出しや騒音を巡って近隣住民から苦情が相次ぐようになった。事業者が賃貸物件を買い取り、特区民泊に看板を掛け替えて住民に退去を迫った事例もある。
特区民泊の申請は2段階で審査される。施設の構造を示す図面や法人登記といった約10種類の提出が求められる書類審査と、保健所職員が施設に赴き、不備がないかを確認する現地調査だ。さらに特区民泊の申請に当たっては、周辺住民への説明会の実施が義務付けられている。
旅館業法、民泊新法に基づく民泊では、住民説明会は必ずしも求められていないが、大阪市の担当者は「インバウンドを主な客層として想定し、通年営業が可能な特区民泊は、他の民泊より住民とトラブルになる環境が生じやすいと想定されたため、住民説明会が重要視されている」と解説する。
しかし、約200件の民泊申請を手掛けたという行政書士は、審査の肝となる住民説明会のチェックのあり方に穴があると指摘し「説明会に市が立ち会うわけではなく、書類上の審査のみ。住民への確認もなく、やった体にすることはいくらでも可能だ」と明かす。
大阪市の特区民泊はスタートからおよそ10年を経て5月末で新規受け付けが停止される。昨年、市保健所に新設された「迷惑民泊根絶チーム」は既存の特区民泊の営業実態を調査し、悪質な事業者を抽出。26年度からは指導に乗り出し、業務改善・停止命令や認定取り消しも検討する。市は併せて特区民泊の審査基準の厳格化を国に働きかけていく方針だ。
大阪府が所管する府内29市町村の特区民泊も大阪市と同じタイミングで新規受け付けを停止する。
特区民泊に詳しい福知山公立大の中尾誠二教授(交流観光論)は「民泊によって周辺住民の生活が侵害されるのは本末転倒。事業者が近隣住民にどう説明・対応しているか、行政は詳細を把握しておく必要がある。特区法は規制緩和のための法律で性善説に基づいた設計になっている。国は特区法を見直し、審査基準の厳格化を進めるべきだ」と指摘する。【飯塚りりん】
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