WBCに向けた「日本の再テスト」? 産業論から見る大リーグ開幕戦
米大リーグ(MLB)の開幕カードが18日から東京ドームで始まる。MLB側が日本で開幕戦を行う狙いはどこにあるのか。ソフトバンク球団の取締役を務めたスポーツ産業論が専門の桜美林大・小林至教授(57)は、今回を「日本市場を再テストする」機会と分析する。
◇米国内の市場は「頭打ち」の現状
まず小林さんは、開幕カードを日本で行う理由について「MLBにとって、日本市場の重要性が高まっているからです」と断言する。
今年は1995年に野茂英雄さんがメジャー挑戦のため渡米して30年。この間、日本球界のトップ選手らは次々に海を渡った。
「日本はMLBにとって選手の『供給源』として欠かせない存在に成長した」
その上でスポーツビジネスの観点から、小林さんはこう付け加える。
「海外選手を獲得し、その母国や地域に(試合観戦を含めた)『商品』を販売する流れは、プロスポーツ界の定石です」
背景には、MLBが米国内の市場では「頭打ち」となっている現状がある。米国内のスポーツ市場はプロアメリカンフットボールのNFLが圧倒的なシェアの大きさを誇る。その上で小林さんは、「MLBは市場規模が近いプロバスケットボール(NBA)をライバル視している」と見ている。
MLBの観客動員数や視聴率は、ここ数年こそ投球間に時間制限を設ける「ピッチクロック」導入に代表される試合時間を短縮するためのルール変更や、ドジャースの大谷翔平選手の活躍などで回復傾向にある。しかし、ピーク時と比較すると大きく下回る状況が続いているという。
「MLBは『国際化しないと次がない』という危機感が強いはずです。10年、20年先を見据えて本気モードになっている」
日本は野球熱が高い国民性に加え、昨年は「大谷効果」で日本企業12社がドジャースのスポンサーになった実績がある。次なる市場の筆頭候補に挙がり、小林さんは「野球界における『ジャパンマネー』への期待は大きい」と語る。
昨年は韓国がドジャースの開幕シリーズの舞台に選ばれた。台湾も含めて東アジア全体には熱い視線が送られているようだ。
◇注目は動画配信サービスの「視聴動向」か
小林さんはもう一つ、開幕カードを日本で行う大きな目的があると考えている。来春に開催予定で、やはりMLBが主催するワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向けた「試金石」という位置づけだ。
特に注目するのは、試合放映の在り方だ。小林さんによると、2023年の前回大会でも日本は各試合で平均3000万人前後が視聴したという調査結果があった。米国と比較しても桁違いの多さだった。
一方、試合中継を視聴する方法の一つとして、動画配信サービスが台頭して久しい。日本では今回、地上波テレビによる中継もあるが、動画配信サービスについてはアマゾンプライムビデオが独占配信する。
日本国内では米国よりも特に関心が高いWBC。これに向け、今回の日本での動画配信サービスの動向は、来春のWBCの「放映権料や放映の在り方を検討する貴重な実験の場になる」と、小林さんは分析する。
また、ドジャースは開幕カードに向け、日本在住者を対象にした公式ファンクラブを開設。ファンイベントも次々に開くなど、ほかにも収益を生む新しい動きは活発化している。
小林さんは、今回の開幕カードが「日本という市場の再テストになるだろう」と語る。競技としての側面だけではなくスポーツビジネスとして、大きな意義を持つ試合にもなりそうだ。【川村咲平】
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