<football life>熱すぎず、さめすぎない 大人な久保建英の新境地 サッカー日本…
その瞬間、サムライブルーのエースは「頭が真っ白になった」
20日のサッカー・ワールドカップ(W杯)北中米大会のアジア最終予選、バーレーン戦。1―0の後半42分、久保建英選手(23)=レアル・ソシエダード=はゴール左のわずかな隙間(すきま)をぶち抜く、豪快なシュートを突き刺した。
日本史上「最速」でのW杯本大会出場を決定的にする会心の一撃。ユニホームを脱ぎ勢いよくグルグルと回して、仲間が作る歓喜の渦の中に飛び込んだ。
早くから「天才」と将来を嘱望された。スペインの名門バルセロナの育成組織育ち。国際サッカー連盟(FIFA)の規約により13歳で日本に戻ったが、16歳でJ1デビュー、世代別代表にも飛び級で選ばれて、ステップアップを重ねた。
ただ代表でのキャリアは順風満帆とは言いがたい。けがの影響もあり、前回W杯カタール大会のアジア最終予選は4試合のみ出場。本大会でも出番はドイツ戦とスペイン戦の前半45分ずつに限られ、満を持して臨むはずだった決勝トーナメント1回戦のクロアチア戦は、体調不良でチームに同行すらできずに終わった。
前回のW杯最終予選、本大会出場権を獲得したアウェーでのオーストラリア戦はベンチを温めて終わった。「全然納得していなかった」
当時、既に活躍の場をスペイン1部リーグに移しており、「ラ・リーガで出ていて、何で(日本代表では)出られないんだと思った」。所属先では日々、世界最高峰の選手としのぎを削り、自信が芽生える一方、日の丸を背負った戦いでは満足にプレー時間を得ることができない現状にもどかしさが募った。
救いになったのは偉大な先輩たちの姿勢だ。思うようにいかずくすぶっている時に寄り添ってくれたのは、長友佑都選手や川島永嗣選手だった。ピッチに立っていなくても、全力で仲間を鼓舞し後押しする2人の姿。まだ若かった久保選手の心も揺さぶられた。「僕の気持ちを分かりつつ、チームを応援することも忘れず、いろんな面で助けてくれた2人。今でも感謝しています」と思いを明かす。
フォア・ザ・チームの精神を前面に出して戦うようになった。今回の最終予選、久保選手は取材機会がある度に「チームのため」「チームが勝てばいい」と繰り返した。
5勝1分けで迎えたバーレーン戦。勝てば他会場の結果にかかわらず3試合を残して最速でのW杯出場が決まる大一番で、最終予選4試合目の先発出場を果たし、後半21分に鎌田大地選手の先制ゴールを演出した。その21分後には自らの左足で追加点。ビッグマッチで1ゴール1アシストと無双状態だった。
「チームのために、ということを一心に考えて、ゴールを決め、チームの勝利に貢献できた。今は他人を羨ましいと思う必要もなくなったし、自分の実力はしっかり分かっているつもり。幼稚さは抜けて、いい選手になれたかなと思う」
自らゴールを決めて感情をあらわにした久保選手は、ユニホームを頭上に放り投げた。「(ゴールを)決める予定があればゴールセレブレーションくらい用意していますけど(笑い)。決める予定もなかったので、感情が爆発した」
背番号20のユニホームを拾った主将の遠藤航選手に、たしなめるように頭を「コツン」とたたかれた。さらに主審から警告も受けたが、「(カードを)気にしていたらサッカーはやっていられない」と笑った。
幼さが消え、熱さと客観性を併せ持ち成熟していく久保選手。史上初のベスト8、さらなる上の目標として優勝を公言する2026年6月開幕のW杯本大会に向けて、エースの無双はこの上なく頼もしい。【角田直哉】
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