岐路に立つ高校野球 賛否渦巻く「7回制」 議論は最終局面に
「変革」か「伝統」か――。高校野球は岐路に立たされている。
日本高校野球連盟の理事や監督経験者で作る検討会議は5日、2028年春の第100回記念選抜大会以降、すべての公式戦で現在の9イニング制から7回制に移行すべきだと理事会に提言した。なぜ今、野球の根本を変えるかどうかの決断が求められるのか。
1月に発足して議論を重ねてきた検討会議の提案を受け、9~10月の国民スポーツ大会(国スポ)では高校野球の公式戦で初めて、7回制が採用された。出場校からは「七~九回が一番面白い」「まだ判断する状況にはない」「夏の暑さを考えると仕方ない」など賛否が渦巻いた。
日本高野連の井本亘事務局長は5日の理事会後の記者会見で「これからの高校野球をどうしたらいいのかというところで、いろんな角度から考える。暑さ対策は課題の一つだが、選手の健康問題、働き方改革などさまざまな要素から議論を重ねてもらった結果だ」と強調した。
最優先は夏の酷暑対策だ。日本高野連は今夏の甲子園大会で開会式を初めて夕方に実施。昨夏に初導入した、朝夕に分けて開催する2部制も拡大した。
しかし、雨による中断や延長戦突入などが重なり、史上最も遅い午後10時46分に終わる試合も出た。熱中症のリスクは軽減できても、選手が夜遅くまでプレーする懸念や応援団への対応も含めて大会運営に重い課題を残した。
今夏の甲子園の1試合平均時間は2時間11分で、秋の国スポの硬式の部は1時間41分。7回制の試合は約30分も短く、暑さにさらされる時間は減り、運営にも柔軟性が出てくる。
熱中症は重篤な事態が起こりうる上、選手だけの問題ではない。今夏の甲子園で初優勝した沖縄尚学の比嘉公也監督は「審判や観客とかトータルを考えての流れだと思うので、仕方ないかなと個人的には思う」と一定の理解を示していた。
健康面だけでなく、働き方改革など社会課題も背景にある。教員らは日々の業務と並行して部活動や地方大会の運営に携わる。検討会議は、7回制が日ごろの練習時間の短縮など、指導者の負担軽減にも有効として期待を寄せる。
少子化もあり、全国の硬式野球部員数はピーク時の14年度から約4万5000人減り、今年5月時点で12万5381人。部員不足による連合チームが増え、強豪校との二極化も進む。他競技に比べて試合時間の長さが野球離れにつながっているとの指摘もあり、競技人口減に歯止めをかける上で「時短」になる7回制に期待は大きい。「7回制になれば部員数が少なくても強豪に勝つチャンスが広がる」と見る関係者もいる。
日本高野連はタイブレーク制度や投球数制限など、選手の体を守る施策を導入してきた。高校年代の国際大会、U18(18歳以下)ワールドカップ(W杯)では22年から7回制が採用されている。
ただ、7回制は「野球の根幹に関わる」(井本事務局長)テーマで、反対意見は根強い。選手の出場機会の減少が最も危惧され、高校野球が100年以上の歴史を紡ぐ中、過去の記録と比較できなくなるなど、魅力を損なう恐れもある。
今夏の甲子園に初出場し、国スポで7回制を体験した綾羽(滋賀)の千代(ちしろ)純平監督は「7回制は代償が大きい気がする。9回制をやるために自分たちに何かできることがないか、現場の人間としても考えたい」と話す。選手からも「物足りない」「心残りがある」と不安視する声も聞かれる。
一方、仙台育英(宮城)の須江航監督は「試せばいいと思います。決めたら一生それでやらないといけないわけではない。やってみて、ちょっと違うと思えば戻せばいい。いずれにしても子どもたちが望む形になるのが一番」と提案していた。
どう着地点を見いだすのか。議論は最終局面に入る。【長宗拓弥】
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