職場で初めて育休を取った男性医師 長時間労働の病院でどうやって?
横浜市泉区の戸塚共立いずみ野病院に勤務する脳神経内科医、古谷正幸さん(35)は、同病院の男性医師として初めて育児休業を取得した。働き方改革が叫ばれる中、男性の育休取得は浸透しつつあるが、医師の間では進んでいないのが現状だ。なぜ取ろうと思ったのか、本人に聞いた。【横見知佳】
古谷さんは、第1子の長女が生まれた2024年10月から25年1月までの3カ月間、育休を取った。妻(28)は元看護師で、出産当時は仕事を辞めていたが、「新生児期に一緒に子育てしたい」と夫婦で話し合い、決断したという。
古谷さんの勤務先は09年設立で、病床数100の中規模な病院だ。担当するのは、回復期リハビリテーション病棟(50床)で、脳梗塞(こうそく)やくも膜下出血などを発症した患者が日常生活に戻るため、医師として支える。
高橋竜哉院長(61)ら計3人の医師で担当し、古谷さんは12人の患者を受け持つ。病状説明や回診、理学療法士らと共にリハビリ計画の作成などが日々の仕事だ。また、院内の認知症ケアなどを検討する複数の委員会にも参加する。
育休を決意したのは妻の妊娠が分かり、出産に向けて必要な準備を考えていたとき。同世代の医師と育休が話題に上がることはあったが、実際に取得したことがある医師は身近にいなかった。
高橋院長に相談しようと考えたが、同病院では前例がなかったため、古谷さんはあらかじめ自身の日々の業務をリストアップして、提示した。自身で対応を続けられる委員会には育休中も月1回参加することにした。高橋院長は「初めてのことだったが、(古谷さんの)引き継ぎ計画を元に仕事を振り分けた」と、スムーズに育休取得は実現した。
医療人材総合サービス「エムステージ」が24年11月に実施したアンケート調査では、子どものいる男性医師292人のうち、育休取得経験があると回答したのは9・9%にとどまった。厚生労働省によると、23年度の民間企業で働く男性の取得率は30・1%で、医師とは大きな開きがある。
特に勤務医は長時間労働が常態化しており、高橋院長が他の医師に伝えた際には「時代が変わった」と驚く人もいたという。高橋院長は「普段から病院では『寄り添う医療』を掲げており、理解してくれた。モデルケースができたことは大きい」と話す。
古谷さんの受け持っていた患者は、高橋院長ともう一人の医師に分担してもらい、患者も理解を示してくれたという。古谷さんは「医師は己を捨て、身をささげて働く『滅私奉公』が求められる面もある。当直や急変の多い急性期の担当であれば取得をためらったのかもしれない」と打ち明ける。
育休中は、生まれたばかりの娘が笑ったり、初めて首を動かしたりした時に成長を感じ、喜びを妻と共有した。数時間おきに授乳で目を覚まさなければならない妻が少しでも休めるよう家事を中心に取り組んだという。
古谷さんは「育児を応援してくれる人が職場にもたくさんいることが分かった」と、同僚や勤務先に感謝する。一方で、「仕事をカバーしてくれる人に対して手当が出るなどの仕組みがあればさらに取りやすくなるのではないか」と指摘する。
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