ロシアで「影の戦争債務」 軍事関連企業の借金、3年間で38兆円

2025/02/19 05:00 

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 ウクライナ侵攻が長期化するロシアで、金融機関による軍事関連企業に対する融資が急増している。2022年以降の3年間で軍事関連企業の借金の総額は最大2490億ドル(約38兆円)に達し、同期間の防衛費の総額に迫る規模だ。専門家は戦争のコストを民間取引につけかえた「影の戦争債務」と指摘している。

 ロシアの政策を研究している米ハーバード大デイビスセンターのクレイグ・ケネディ氏がロシア中央銀行のデータなどをもとに分析した。それによると、22年夏から24年10月に積み上がった企業の借金の総額は4150億ドル。このうち5~6割が軍事関連企業の借金とみられ、「影の戦争債務」は2070億~2490億ドルに達する。ロシアの22~24年の防衛費は総額約3000億ドルで、「影の戦争債務」がなければ実際の防衛費は倍近くに膨らんでいた可能性があると指摘している。

 ◇民間企業向け融資急増

 ロシア中銀は物価上昇(インフレ)対策のため政策金利を断続的に引き上げており、本来であれば民間融資は減少するはずだ。しかし、ロシアは22年2月のウクライナ侵攻開始直後、軍事関連企業に対する民間融資の権限をロシア政府に与える法律を施行。この結果、企業の借金総額は3年間で71%も増加。中でも軍事関連企業の借金は他の産業に比べ3倍近いペースで増えており、政府の指示で銀行などがリスク度外視の融資を続けているとみられる。

 ◇ロシア経済の新たな火種に

 ウクライナ侵攻の長期化で、ロシア政府が公表している軍事費も右肩上がりの状況だ。ロシアの25年予算のうち防衛費は全体の3割を超える13兆4900億ルーブル(約20兆円)となり、初めて10兆ルーブルの大台も超えた。

 「影の戦争債務」によって防衛費を圧縮することで政府債務の増加を抑え、通貨安などに歯止めをかける狙いとみられる。ただ、軍事企業向け融資の多くは最終的に回収不能になる恐れがあり、ロシア経済の新たな火種となりかねない。

 ケネディ氏は「停戦を先延ばしにするほどロシアの信用不安のリスクが高まる。結果、停戦に向けた交渉力を徐々に失うというジレンマに直面している」と指摘している。【ブリュッセル岡大介】

毎日新聞

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