<特派員の目>6兆円のペット市場が映す中国社会の変化=松倉佑輔(北京)
中国で暮らしていると、街で犬を散歩中の人とよくすれ違う。服で着飾った高級な犬種も珍しくない。近年、中国では猫や犬などのペットを飼う人が急増、関連用品は成長市場として注目されている。変化の激しい中国だが、ペットブームは本物なのか。
その雰囲気を感じようと2月末、北京市内で開催された展示会「北京国際ペットフェア」を訪ねた。12万平方メートルの会場に1500以上の事業者が出展。ペットフードやおもちゃ、服などが所狭しと並び、会場は来場者であふれかえっていた。
その活況ぶりは中国のペット熱を反映している。2025年中国ペット業界白書によると、都市部でペットを飼う家庭は約7689万世帯に達し、犬猫の数は1億2000万匹を超えた。関連市場の規模は3000億元(約6兆円)以上で、27年には4000億元(約8兆円)を超えると予想されている。
展示会には世界各国の企業が集結。日本貿易振興機構(JETRO)のブースには18社が出展した。
日本企業の強みは何か。キーワードは「健康」だ。最近ペットを飼い始めた人が多い中国では犬や猫もまだ若く、動物の高齢化や病気に対応した製品は日本に一日の長がある。ペット用のサプリメントを販売する「モノリス」の茂呂陵宏社長は「中国からの観光客が日本でまとめて製品を買っていくこともある。需要はまだまだ増える」と手応えを感じている。上海に長く滞在した薬膳ペットフード販売「not」の水澤佳寿子社長は「ペットに愛情をささげる所得にゆとりのある若者が増えた」と指摘する。
背景には少子化もある。米金融大手ゴールドマン・サックスは、30年までに中国都市部のペット数は4歳未満の乳幼児数の2倍になると予測。1人暮らし、あるいは子供のいない若者たちにとって、ペットは日々の生活を癒やす家族の一員となっている。ペットを冗談めかして「毛孩子(マオハイズ)」(毛の生えた子供)と呼ぶ言葉もネット上をにぎわす。
景気失速で節約志向が定着する中国だが、「47%の買い主はペット用品への出費は惜しまない」という調査結果もある。子供への教育費に多額のお金をかける現在の状況と似通っているとも言える。
中国社会の変化と密接に関わっている昨今のペットブーム。一過性のものとは言えなそうだ。
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