震災で流出の物品は「ごみ」? 英で展示のアートに使用 指摘相次ぐ

2025/04/19 16:59 

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 英国・ロンドンで展示されている「海洋プラスチックごみ」によるクジラのアート作品に、東日本大震災の津波で流された物品が使われていることが分かった。

 作品は、海に流出したプラスチックごみを批判する目的で作られたが、被災地の物品への指摘が交流サイト(SNS)上で相次ぎ、アーティスト側は「全てが(ごみとして)意図的に捨てられたわけではない」と釈明する事態となった。

 作品が設置されたのは、ロンドン東部の再開発地域「カナリーワーフ」。米ニューヨークを拠点とするアーティストとハワイ州の野生動物保護団体が協力し、ハワイの海岸で集めたという青と白の「プラスチックごみ」5トンを使用して制作した。

 高さ11メートルでシロナガスクジラを模しており、ビル街を通る水路から飛び出すように飾られている。近くにある説明文には「都市で生み出されるプラごみが、どれほど海に流出しているかを印象づけるために制作された」とある。

 だが、素材に使われたプラスチック製の青いかごには「石巻魚市場」や「JFたろう」「気仙沼魚市場」などと被災地の地名が記されていた。被災地の地名が入った「ごみ」は少なくとも11点あった。震災の津波で流出し、ハワイに流れ着いたとみられる。

 カナリーワーフの公式SNSには、展示を発表した9日の投稿に「被災地の名前が書かれているのに、ごみとして扱われ、悲しい」「故意に捨てたわけじゃないものもあると知ってほしい」とのコメントが英語や日本語で相次いだ。

 これらを受け、カナリーワーフは14日、「(複数の物品は)津波被害により東北地方の魚市場や漁港から流出したものだと判明した。全ての物品を『ごみ』として不快な思いをさせたことをおわびする」とするコメントを出した。

 制作したアーティストは「海にある全てのプラスチックが意図的、あるいはごみとして捨てられたものではない」と釈明したという。作品近くの説明文も、今後修正されるという。

 散歩中に作品を見つけ、撮影していたハービー・カルドソさん(28)は「最初はただ面白い作品だと思っただけだが、経緯を知ると全く違う見え方になる。(震災の物品についても)説明してくれれば」と話した。

 環境省の推計によると、東日本大震災の津波で海に流出した災害廃棄物の総量は約500万トン。7割は海底に沈んだものの、約150万トンが漂流した。

 国際太平洋研究センター(IPRC)のシミュレーションによると、漂流したごみは太平洋を渡り、11年末に北米大陸に到達した。そのうち一部は、12年以降にハワイやアジア諸国に漂着したという。

 米海洋大気局も、11年12月以降、サッカーボールや船など津波による漂流物の報告を数百件受けたとしている。【ロンドン猪森万里夏】

毎日新聞

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