パレスチナ国家承認にいらだつ米イスラエル 注目集める日本の対応

2025/09/09 17:00 

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 フランスを皮切りに相次ぐパレスチナ国家承認に向けた動きは、欧州以外の米国の同盟国に波及している。イスラエルや後ろ盾の米国は強く反発し、オーストラリアとイスラエルの間では激しい応酬に発展している。国連総会に合わせて22日に開かれるパレスチナ情勢の首脳級会議が、国家承認の節目になる見通しで、日本の対応も注目されている。

 豪州は8月中旬、国家承認の方針を表明した。「イスラエルは国際法を無視し続けている」。アルバニージー首相は記者会見でこう批判し、2国家解決こそ「人類にとって最大の希望だ」と強調した。

 豪州は米国に歩調を合わせ、親イスラエル外交を展開してきた。第二次世界大戦後、ナチス・ドイツのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)から逃れた多くのユダヤ人を受け入れ、イスラエルと人的交流が深いという歴史的経緯もある。

 パレスチナ自治区ガザ地区への侵攻についても、停戦を呼びかけつつ、イスラエルに越境攻撃したイスラム組織ハマスの追討には理解を示してきた。

 だが、深刻化する人道危機を前に、世論や与党・労働党内でイスラエル非難の声が高まった。8月3日にはシドニーで親パレスチナデモがあり、少なくとも9万人が参加。「豪州史上最大規模の政治デモ」と評された。

 デモの8日後、アルバニージー氏は国家承認を表明。豪公共放送ABCの番組で、8月上旬の電話協議でイスラエルのネタニヤフ首相がガザの惨状を「否認した」ことが「決断の一因になった」と説明した。

 だが、イスラエルは激しく反発し、両国関係は「過去最悪」と評されるほど悪化した。

 ネタニヤフ氏はアルバニージー氏が「反ユダヤ主義の火に油を注いでいる」「イスラエルを裏切った弱い政治家」と非難。豪国内での講演を企画していたイスラエル国会議員の入国査証(ビザ)が取り消されると、報復として豪州のパレスチナ代表部の外交官のビザを取り消した。

 アルバニージー氏は「個人的に受け止めない」と冷静さを示したが、バーク内相は「強さは『爆弾で何人を殺傷できるか』『子どもをどれほど飢えさせられるか』で測られない」と反論した。

 関係が悪化する中、豪州は8月末、2024年にユダヤ系住民を狙った襲撃事件にイラン当局が関与したとして、駐豪イラン大使を国外追放した。イスラエルはこれを歓迎し、「ネタニヤフ氏の介入によるもの」と主張したが、豪政府は「全くのナンセンス」と強く否定した。

 一方、豪州の隣国ニュージーランドも、パレスチナ国家の承認を検討している。ピーターズ外相は「問題は『するか、しないか』ではなく『いつするか』だけだ」と述べ、国連総会に合わせて対応を示す方針だ。

 また、カナダのカーニー首相も7月30日、9月の国連総会でパレスチナを国家として承認する意向を表明した。パレスチナ自治政府が来年中にイスラム組織ハマスが関与しない形で選挙を実施し、非武装化などの改革を進めることが条件だとしている。

 ◇トランプ政権はいらだち

 同盟国で広がる動きに対して、親イスラエルのトランプ米政権はいらだちを強めている。ロイター通信によると、ルビオ米国務長官は9月4日、パレスチナを国家承認すれば「問題が起きる」と指摘。イスラエルが対抗措置をとり、ガザでの停戦も遠のくとの見方を示した。

 日本は「適切な時期やあり方も含め、総合的な検討を行う」との姿勢だ。イスラエル占領下のパレスチナで「一定の領域で住民を統治する実効的政治権力が確立している」という国家要件が満たされない状況は変わっていないが、承認に転じた国々はそうした状況は承知の上でイスラエルへの圧力を形にしようとしており、日本も慎重に対応を検討している。【バンコク国本愛】

毎日新聞

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