孤立のイスラエルと追い詰められたハマス 停戦合意は「利害の一致」

2025/10/09 15:25 

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 パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとイスラエルは現地時間9日、戦闘を停止し、ガザ地区で拘束された全ての人質を解放することで事実上合意した。

 発効すれば、ガザの住民は1~3月の一時停戦以来、約7カ月ぶりに戦火から解放される。ただ、ハマスの武装解除などを巡る交渉はこれからで、戦闘終結と中東の安定につながるかは予断を許さない。

 「神は偉大なり!」。停戦合意の発表を受け、SNS(交流サイト)では9日未明、ガザの住民が路上に繰り出し、手をたたいて踊ったり歓声を上げたりする様子を映した動画が投稿された。23万人以上の死傷者を出し、人道危機が深刻化しているガザの住民にとって、停戦合意は待望のニュースだった。

 今回の交渉は、トランプ米大統領が9月末に包括的な和平案を提示したのをきっかけに動き始めた。国連総会に合わせて訪米していたアラブ・イスラム諸国の首脳らからいち早く支持を取り付け、イスラエルのネタニヤフ首相も同意した。

 戦争継続を求めてきたネタニヤフ氏としては、ハマスが和平案を拒否することを見越していたとも報じられている。

 だが、ハマスは10月3日の声明で和平案の一部受け入れを表明。トランプ氏はこれを歓迎し、イスラエルに「爆撃の停止」を要請した。ハマスの回答は全面的な承諾ではなかっただけに、ネタニヤフ氏はトランプ氏の反応に驚いたとも報じられている。

 イスラエルはガザの戦闘を始めて以降、国際的な孤立を深めてきた。

 レバノンやイランなど周辺国に戦線を拡大し、中東情勢は一気に不安定化。9月上旬にはハマス幹部を狙うため、停戦交渉の仲介国で、米国の同盟国でもあるカタールの首都ドーハを空爆した。中東諸国だけでなく、欧米からも強い非難を浴びることになった。

 その後、英仏などはパレスチナ国家を承認。今回、米国の和平案に従って停戦に合意しなければ、最大の後ろ盾である米国の支持も失いかねない状況だった。

 一方、ハマスも和平案に同意する以外に現実的な道はなかった。

 これまでの戦闘で、ガザ地区の指導者シンワル氏ら最高幹部を軒並み殺害されたうえ、地下トンネルなどの軍事インフラも多くが破壊された。人道状況の悪化に伴い、ハマスに対する住民の反発も広がっており、戦闘を継続する意味はほとんどなかった。

 これまでの停戦交渉は、ハマスが人質解放後の恒久停戦を求めたため、決裂していた。一方、今回の和平案では、米国がイスラエルに戦闘を再開させないことを約束しており、ハマスは米国を信頼したとみられる。

 また、エジプトなどアラブ諸国による圧力も強まっていた。中東情勢は、ガザの戦闘で不安定化しており、停戦は喫緊の課題だった。米国の提案は、アラブ諸国が拒否してきたイスラエルによる占領や併合、住民の追放を認めないことが明記されており、十分に支持できる内容だった。

 交渉が決裂すれば、戦闘激化にともなう隣国への難民流出という最悪のシナリオもあり得たとみられる。

 停戦合意を受け、交渉の焦点はハマスの武装解除や戦後統治のあり方に移る。和平案では武装解除や軍事インフラの破壊を進め、ガザを「非軍事化」する一方、イスラエル軍が段階的にガザから撤退するとされている。

 だが、ハマスは「イスラエルの占領が続く限り、武器は放棄しない」との立場を堅持。これに対し、イスラエルは「武装解除しない限り、ガザから撤退しない」と主張しており、溝は埋まっていない。

 また、戦後のガザはブレア元英首相らによる暫定統治機構が主要な役割を担うとされているが、ハマスはブレア氏がメンバーになることを拒否しているとの情報もある。これらの点について交渉が長期化すれば、再び決裂する可能性も残る。【カイロ金子淳】

毎日新聞

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