EUとインドのFTA妥結 世界のGDP2割占める巨大経済圏誕生へ
欧州連合(EU)とインドの自由貿易協定(FTA)交渉が妥結した。世界の国内総生産(GDP)の約2割を占める巨大経済圏が誕生する。20年近く続いた交渉がまとまった背景には、高関税措置を乱発するトランプ政権下の米国や、安値攻勢で域内産業に打撃を与えかねない中国への過度な依存を避け、貿易関係を多角化したい両者の思惑が一致したことがある。
「史上最大級の通商協定をまとめ上げた」。EUの行政執行機関トップのフォンデアライエン欧州委員長はニューデリーで27日、こう誇った。AP通信によると、EUとインドの貿易額は年1365億ドル(約21兆円)規模。双方は、2030年に2000億ドルまで伸ばしたい考えで、年内の協定発効を目指すという。
協定が発効すれば、EUからインドへ輸出する製品の96・6%で関税が撤廃されるか引き下げられる。特に自動車への関税は年間25万台を上限に110%から10%へと段階的に引き下げられ、中国市場で不振に陥る欧州自動車メーカーには追い風だ。ワインやオリーブオイルなど農業食品の関税も幅広く引き下げられて門戸が開かれる。
両者の交渉は07年から始まったが、13年に規制などを巡る溝が埋まらず中断した。だが、EUが安値攻勢を仕掛ける中国からの輸入依存に警戒を強める中で、改めてインドの存在が注目されて22年に交渉は正式に再開された。
さらに、25年1月にトランプ氏が大統領に返り咲くと、米国はEUを含む世界各国・地域に高関税措置を発動した。昨夏に両者は関税交渉で基本合意したものの、トランプ氏は今年1月に一時、新たな追加関税を欧州8カ国にちらつかせてデンマーク自治領グリーンランドの領有容認を迫った。EUの中では「脅しを繰り返す」(高官)米国も中国同様に「リスク」と見なされ始め、インドとの交渉は加速した。
フォンデアライエン氏は「貿易がますます『武器化』される時代に、(EUとインドの)強みを組み合わせることで、戦略上の依存を減らすことができた」と意義を語った。
EUは今月、25年続いてきた南米の関税同盟「メルコスル」とのFTA交渉でも署名までこぎ着けた。EUが世界1、2位の経済大国である米中以外との通商関係強化を目指す動きは、今後も続きそうだ。
◇インドにとっても逆風乗り切る一手に
インドにとってもEUとの貿易協定は、逆風を乗り切る一手となりそうだ。
トランプ氏が2期目の大統領に就任して以降、インドは米国との貿易交渉を続けてきたが、合意できていない。
トランプ氏はインドを「標的」とするような発言を繰り返し、25年8月には、ロシアから大量の原油を購入していることを理由に、相互関税を含めてインドからの輸入品に対する関税を最高水準の50%に引き上げた。
人口14億人超と世界最多のインドは、内需主導の経済成長を続けており、「トランプ関税の影響は限定的」(インド輸出組織連盟幹部)との見方も出ている。ただ、一方でインド政府は、これまで米国に頼ってきた輸出産業の新たな売り先探しに追われてきた。
繊維や宝飾品はトランプ関税の打撃が大きい産業の一つとされるが、今回のFTAで、それぞれ最大12%と最大4%の関税が撤廃される見込みとなり、欧州への市場拡大の弾みとなる可能性がある。
インドは既に、EU以外との貿易交渉も加速させている。25年7月には英国とFTAを締結し、その後ニュージーランドやオマーンとの合意も発表した。さらに11月には、カナダで23年にインドからの分離独立を掲げるシーク教徒の活動家が射殺されて以降、互いに外交官を一時追放するなど関係が冷え込んでいたカナダ政府との貿易交渉の再開で合意した。
インドは巨大な国内市場を抱えるが、国内産業保護のための高関税だけでなく、不安定な電力インフラや複雑な税制などの課題が長く指摘されてきた。通商分野でのインド政府の積極的な動きとともにこうした事態が改善するかも注目される。【ブリュッセル岡大介、ニューデリー松本紫帆】
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