名古屋市長就任1年 課題山積、公約実現に調整力と決断力発揮が必要
名古屋市の広沢一郎市長(61)が市長に就任して25日で1年となる。河村たかし前市長(77)とは一転、市議会と良好な関係を築く広沢氏だが、公約は思い通りに進んでいない。広沢市政に必要なものは何か。2年目以降を乗り切るカギを探った。【真貝恒平、式守克史】
河村氏から後継指名を受けた広沢氏が「一丁目一番地」に掲げたのが、市民税減税の拡充だった。減税率を現在の5%から2026年度に10%に拡大する目標を示し、庁内にプロジェクトチームも立ち上げた。
しかし、目標は早くも頓挫する。
10%減税の実現には年間200億円程度の財源が必要となるが、市財政は火の車だ。人件費や扶助費などがかさみ、来年度は922億円という過去最大の収支不足が見込まれる。市の貯金に当たる財政調整基金は、25年度末には前年度比116億円減の45億円まで減少。市債残高は26年度末に1兆9379億円を超え、過去最高を更新する見通しだ。
今後さらに財政を圧迫するのが、県と来年共催するアジア・アジアパラ大会の経費だ。当初想定の3倍超の3000億円台後半に上るとみられ、支出の増大は必至な状況。市は大会関係経費を対象に、22年ぶりに公債償還基金から453億円の借り入れも決めた。
「厳しい財政状況を考え、26年度は見送りたい」。今年10月、広沢氏は10%減税の先送りを表明した。記者会見では厳しい表情を浮かべ、「選挙での約束を早期に果たせなかったことは大変申し訳ない」と陳謝した。
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難航している看板公約はもう一つある。河村氏が長年訴えてきた名古屋城天守閣の木造復元だ。広沢氏も「史実に忠実な復元を必ず完遂する」と強調するが、乗り越えるべきハードルは多い。
天守閣整備事業は、市主催の市民討論会で参加者が車いす利用者に差別発言をし、居合わせた河村氏らが制止しなかったことで批判を浴び、23年から事実上ストップしている。
最大の争点はバリアフリー問題だ。市は車いす利用者と介助者が一人ずつ乗れる小型昇降機の設置を検討するが、昇降階数については「可能な限り最上階(5階)までの設置を目指す」にとどまる。
これに対し、障害者団体などは現在の天守に23人乗りのエレベーター(EV)が2機あることを挙げ、木造天守でも最上階までアクセスできるEV設置を求めてきた。
「丁寧に説明し、再スタートする」と事業再開に意欲を見せる広沢氏は今年8月以降、有識者や関係団体からの意見を聞き取ったり、EV設置を目指す障害者団体と意見交換したりしてきた。
ただ、議論は平行線をたどる。広沢氏はEV設置は「難しい」との姿勢を崩さず、小型昇降機の設置に理解を求める。市は来年2月ごろに昇降設備の本体仕様を示し、5月ごろに設置範囲の素案を提示する予定だ。全体のバリアフリー方針は27年2月ごろに策定方針だが、内容次第では障害者団体などからの強い反発も予想される。
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1年目から難しいかじ取りを迫られた広沢氏。教員盗撮事件や、個人情報の違法収集など市政への信頼を失墜させる事案も相次ぎ、疲労や緊張から今年6月には会見中に倒れ込み、救急搬送された。
河村市政を継承する広沢氏だが、人柄や政治手法は大きく異なる。市議会との対話を軽視して対立を先鋭化させ、「独断」とも批判を浴びた河村氏に対し、広沢氏は温厚な人柄で「丁寧な対話」を重視。当初は警戒していた市議らも、その柔軟姿勢から「ようやく議論が交わせるようになった」と評価する。
河村氏と犬猿の仲だった大村秀章・愛知県知事も、広沢氏を「政治家というより実務家タイプ。話しやすい」と受け止める。
円滑な行政遂行のためには、市議会や県との連携も不可欠だ。それぞれと良好な関係を構築しつつある広沢市政の船出は、順調そうにも見える。
ただ一方で、広沢氏の「全方位外交」を危ぶむ声も聞こえる。「優しすぎてリーダーシップや決断力に欠ける」「議会に懐柔されるのでは」。一部の職員や市議からは、対話重視の負の側面を指摘する声も上がる。
山積する課題を解決し、市民に約束した公約を実現するためには、調整力と決断力をバランス良く発揮する必要がある。
「(河村氏から継承した政策を)自分流にどう実現できるか模索していきたい」。1年前、初登庁時にそう語っていた広沢氏。穏健路線の「広沢流」をどう進化させていくかに注目の集まる2年目となりそうだ。
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