横尾忠則さんが語る三島由紀夫 生誕100年で平野啓一郎さんと対談
作家の三島由紀夫(1925~70年)が14日、生誕100年を迎えたのに合わせ、生前に三島と交流のあった画家の横尾忠則さん(88)と、三島の作品論の執筆をライフワークとしてきた作家の平野啓一郎さん(49)が東京都内で対談した。
「1日に何度も三島さんのことが浮かんでくる」と語った横尾さんは、三島にまつわるエピソードを惜しみなく披露した。
◇三島が飾った横尾さんの絵
横尾さんは、著作の装丁を手がけるなど三島と親交があった。
出会いは、無名のグラフィックデザイナーだった20代後半に開いた展覧会に三島を招待したことだった。
ポロシャツから見える鍛え抜かれた三島の上腕には、注射の痕を隠すようにばんそうこうが張られていたため、不釣り合いな印象を受けた。
それまで三島の作品をほとんど読んだことはなかったが、「小説のファンです」と答えると、三島は見透かしたように、「つまらないことを言うやつだな」という表情をしたという。
その後、三島は「作品を書斎に飾りたい」と横尾さんを自宅に招いた。
三島が選んだ作品は「メルヘンチックな絵」だった。書斎に似つかわしくないため、すぐに取り外されたと思っていたが、自決した70年当時も飾られたままと知って驚いたという。
平野さんから2人の関係性について問われると、「会えば、いつも説教をされた」と明かした。
待ち合わせに遅刻したことをとがめられ、礼儀礼節について説教を受けたことがあった。そのため、次の待ち合わせには15分早めに向かったが、すでに三島は待ち合わせ場所にいて「俺の方が早い」としかられたというエピソードを披露し笑いを誘った。
◇「三島由紀夫ですけど…」
横尾さんは、三島の子供っぽい側面も紹介した。
一緒にレストランに行った際、誰も存在に気づかない様子が気にくわなかったのか、カウンターの電話の受話器に向かって「三島由紀夫ですけど…」と大きな声でフルネームを名乗って話し始めたという。
周囲がその存在に気づいて騒ぐ様子を、満足げに見ていたという。
横尾さんは「注目を集めさせようと行動する中に遊びがあった。芸術は遊びだということを重視する人でした」と語った。
三島が晩年、民間防衛組織「楯の会」の活動を始めるなど政治的な活動にのめり込むようになると、横尾さんは距離を置くようになった。
最後の会話は、自決の3日前にした電話だった。当時は横尾さんは足を悪くし、うまく歩けなかったため、三島は「俺が歩けるようにしてやる」と話したという。
自決した当日の夜、横尾さんは三島の自宅を弔問に訪れたが、友人に付き添われて久しぶりに歩くことができた。「本当に三島さんの言う通りになった」と当時の言葉が頭をよぎったという。
横尾さんは、三島の死後1年近くは三島が毎回切腹する夢を見続けた。
「死んだはずなのに生きていた。だからまた腹を切ろうとしているように思えました。肉体は死んだが魂は生きたままだったから、何回も出てきたのかな」
対談中には横尾さんの旧友で、三島とも親交が深かった詩人の高橋睦朗さんも登壇し、3人で三島について語る場面もあった。
多くのエピソードを披露した横尾さんは「作り上げられた三島由紀夫論は誤解されている面もある。明日からは三島の『み』も言えないくらい三島さんを吐き出せた」と満足げだった。
平野さんは「亡くなってからだいぶたち、その死も壮絶だったのに100歳の記念(対談)をこうして笑顔でみんなが楽しく聞いているのは不思議」とまとめた。
イベントは、日本近代文学館(東京・目黒)で開催中の「三島由紀夫生誕100年祭」の実行委員会が主催した。【稲垣衆史】
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