障害有無の格差埋める判断 法整備が背景に 「逸失利益」高裁判決
生まれつき聴覚障害がある女児(当時11歳)が7年前、重機にはねられ死亡した事故を巡り、将来得られたはずの収入「逸失利益」の算定が争われた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は20日、健常者の85%とした1審判決を変更し、健常者と同額の支払いを認めた。障害のある子供の逸失利益を巡り、健常者との格差は残された課題だった。高裁判決は就労の壁が取り払われていく職場環境の実態や変化を丁寧に検討することで、格差を埋める判断を導いた。
就労実績がなく、将来の予測が難しい子供の逸失利益について、約60年前の最高裁判決は「できる限り蓋然(がいぜん)性のある額を算定するよう努めるべきだ」と指摘。以降、労働者の平均賃金を基礎とする算定が定着してきた。
これに対し、障害児は就労能力が低いとみなされ、算定のベースは最低賃金や障害者の収入統計が使われることが少なくなかった。司法判断に変化が出てきたのは最近になってからだ。
知的障害がある男児(当時6歳)が死亡した事故を巡る裁判で、大阪地裁は2017年、平均賃金に基づいた逸失利益を割り出して和解が成立した。広島高裁は21年、高校生だった全盲の女性が車にはねられて重い障害が残った事故を巡る訴訟で、逸失利益を平均賃金の8割と認めた。
これらの判断の背景には、16年の障害者差別解消法の施行など法整備が進んだことが挙げられる。大阪高裁判決も同様で、デジタル技術などの進展も併せて「聴覚障害者が他の従業員と円滑に意思疎通を図っている企業が増えている」と分析した。
そのうえで、高裁判決は「ささやかな合理的配慮」が鍵になると説いた。障害者の周りにいる人が重い負担にならない程度で協力し、働きやすい環境を作っていくことだ。聴覚支援学校では、生徒が自らの望む配慮の内容を決定・変化させていくよう教育を受けていることも重視した。
こうした事情を検討したうえで、亡くなった女児が将来、健常者と同等に働いている可能性が高いと結論付けた判決。両親らの代理人を務める大胡田(おおごだ)誠弁護士は「ささやかな配慮があれば、障害があっても同じ職場、条件で働けると裁判所が積極的に認めた。そのような社会を作るべきだとのメッセージが込められている」と語った。【木島諒子】
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