トランプ氏就任 期待と不安交錯するキーウの街 戦争終結近づくか

2025/01/20 19:17 

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 ロシアによる侵攻開始から近く3年を迎えるウクライナの首都キーウ(キエフ)。市内各地の公園では19日、戦死者の写真を飾った記念碑に祈りをささげ、戦争の早期終結を祈る市民の姿があった。

 ミコラ・ティモシュチュクさん(58)は出征した息子マクシムさん(27)が激戦地の東部ドネツク州で昨年7月から行方不明になったままだ。市内であった集会でマクシムさんの写真と名前、部隊名が書かれた旗を広げ、政府に行方不明者の捜索を求めていた。

 「息子は敵の捕虜になったのだと思う。早く戦争が終結して、みんなが無事で帰ってきてほしい」

 戦争の長期化で人々の顔には疲労の色がにじむ。キーウ市内も夜間には空襲警報が響き、18日もロシアによるミサイル攻撃で少なくとも3人が死亡した。

 20日(日本時間21日)に就任するトランプ次期米大統領は「米国第一」を掲げ、バイデン政権よりもウクライナへの資金・軍事支援には消極的だ。ただ自身の交渉力で早期停戦が可能だと主張し、「就任前」や「就任後24時間以内」に決着させるとも豪語。最近では困難さを知ってか、「6カ月以内」と目標を事実上後退させた。

 ◇世論調査「戦争終結近づく」45%

 キーウ市民の間でも期待と不安が交錯する。現在失業中のイエウヘン・センチシェンさん(32)は「経済力、兵力、人口を考えても、ロシアと対等にやりあうのは難しい。露軍を占領地から完全に排除するのは現実的ではなく、その間に失われる人命の方が重い」と、停戦交渉に向け、妥協も必要との考え方だ。「トランプ氏はゼレンスキー大統領と比べ、より停戦に向けた決意が固いようにみえる」と期待する。

 キーウ国際社会学研究所がウクライナで先月実施した世論調査では「トランプ大統領就任によって戦争終結が近づくか、あるいは遠のくか」の問いに対し、45%が「近づく」と回答し、「遠のく」の14%を大きく上回った。

 一方、トランプ氏の仲介による停戦は、ウクライナに不利な結果をもたらすとの懸念も根強い。同じ調査では、トランプ氏就任でウクライナにとって「公平な和平」を期待できると答えた人は23%にとどまり、「不公平な和平」を予想する人(31%)のほうが多かった。

 キーウ中心部の「思い出の壁」には、2014年の東部におけるウクライナ軍と親露派武装勢力との紛争激化以降に亡くなった兵士の遺影が並び、多くの花が手向けられている。

 ウクライナ東部の戦線から休暇を利用し、追悼のために訪れた現役兵士のシェパードさん(25)は「トランプ氏は発言の内容が月単位で変わるので信用できない。たとえ停戦が実現しても、その後の安全保障が確保されなければ、また数年後にロシアが侵攻してくる可能性が高い」と警戒する。「ウクライナは米国や欧州の兵器に依存するのではなく、将来は自国の軍事産業を育成し、軍需品を可能な限り独自に調達できるようにしなければならない」とも訴えた。

 ギャラップ社が昨年8~10月にウクライナで実施した世論調査では、早期の停戦に向けた交渉を望む人が52%と初めて半数を超え、22年の戦争開始当初の22%から倍以上に増えた。一方、勝利するまで戦闘を継続することを望む人の割合は22年の73%から38%に激減した。戦争の長期化や戦況悪化による閉塞(へいそく)感、疲労感が背景にあるとみられる。

 現地メディアなどによると、22年2月の露軍による侵攻開始以降、ウクライナ軍の死者は6万人を超え、行方不明者は6万人に達するとみられる。【キーウ宮川裕章】

毎日新聞

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