ファミレス、鉄道…至る所にICTの壁 車いす利用者座談会・前編

2025/02/21 09:01 

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 飲食店や小売店など、街の至るところで進むICT(情報通信技術)化と無人化。車いす利用者の生活にはどのような影響を与えているのだろうか。大阪府の障害者支援団体の当事者スタッフで車いすを利用する5人に日常で困る場面について意見を出し合ってもらった。前編・後編に分けてお届けする。【黒川晋史】

 参加者は、NPO法人「ちゅうぶ」(大阪市)の堀篤子さん(64)▽「あるる」(同)の永谷朋裕さん(29)▽「ぱあとなぁ」(東大阪市)の西條和也さん(30)▽「自立生活センター・リアライズ」(泉大津市)の鎮西雄太さん(34)▽社会福祉法人「ぽぽんがぽん」(茨木市)の六條友聡さん(48)。

 ◇配膳ロボットに絶望

 堀 飲食店は最近、店員をなるべく減らし、配膳も支払いもお客さんにさせて、「全部自分でやってね」と省力化する流れが出てきているけど、皆さん何か困ったことは?

 永谷 ファミリーレストランの配膳ロボットには困ってしまう。一応賢いから人にぶつからないように動いているけど、それでも車いすだと通行の妨げになる。多分相手(ロボット)がこちらを認識していないのだろう。けっこう向かってきたりする。ぶつかってしまう人もいると思う。

 西條 一度ロボットから「どいてください」というようなことを言われたことがある。車いすユーザーって、「お誕生日席」みたいに通路にはみ出して座らざるを得ない時がある。そんなことを言われて、びっくりした。

 鎮西 ロボットが「到着しました」と言って、ぴったりと背後につかれた時の絶望感は半端ない。車いすに乗ったまま、どうやって料理が乗った皿を取ればいいのかと。

 堀 他にも回転ずしのチェーン店で、回るレーンとは別に、席の目の前まですしを運んで止まるレールがある。その位置も高くて届かない。

 鎮西 回転ずしといえば、タッチパネルでカウンター席かテーブル席かを選べるようになっている店がある。店内に車いす席がある店でもパネルにその選択肢がなく希望を伝えられない。結局、店員を呼ぶことになる。

 ◇セルフレジに無人店舗

 六條 私の場合、ファミレスだと店員が来るまでテーブルで待っていることが多い。他のお客さんには頼みづらいし。セルフレジもそう。タッチパネルやバーコードのリーダーに手が届かなくて、店員が来るのを待つしかない。

 西條 タッチパネルの注文もややこしくて。今日は車いすユーザーばかりだけど、例えば知的障害の人も使い方が分からないとか、不安が大きいと思う。

 堀 小売店でもセルフレジが増えて「ちょっとした無人状態」の店に加えて、最近は完全な無人店舗も出てきている。今までなら入店時に段差があればお店の人に手伝って押してもらえたが、できない。そもそも入店できないみたいなことにもよく遭遇する。

 西條 怖い社会になった。

 ◇不親切な情報サイト

 永谷 飲食店でいえば、情報サイトに必要なことが載っていない。店がバリアフリーかどうか調べようとして情報サイトを見て、外観の写真を一生懸命眺めても、全然分からない。結局現地に行ったり、電話で確認したりすることになる。もうちょっと分かりやすい写真をいっぱい載せてほしい。

 堀 世の中、検索サイトが発達して便利になったけど、私たちに肝心な情報がない。食べ物の写真ばかりあって、出入り口とか、トイレがどうかとか、そんなのが分からない。「車いす可」とだけ書いてあるけど、具体的に何が「可」なのか。

 ◇高速も電車も使いにくい

 鎮西 高速道路も困る。障害者割引の領収書がいる場合、ETC(自動料金収受システム)のレーンではなく精算機を通過しないといけない。すると手が届かなくて、ものすごく苦労する。

 駐車場の精算機もそう。昔は係の人がいて手伝ってもらえたところもあったけど、今はそれができないところが多い。

 堀 分かる。誤って500円玉を地面に落としてしまっても拾えない。代わりに拾ってくれる人もいない。「500円損したな」と思いながら、そのまま行く。

 交通機関だと、最近、一部の鉄道会社でモデル事業として改札にAI(人工知能)を搭載したロボットを置いている。使ってみたけど、インターホンの方がまだまし。音声認識や学習が不十分なのか、「介助お願いします」という呼びかけすら認識してくれない。そういう言葉くらい教えておいてよ、と思う。

 永谷 結局、僕らはインターホンや対人でのやり取りをしないと電車に乗ることができない。しかも、そもそもインターホンだって使い勝手が悪い。届かない位置にあったり、視覚障害の人もどこにあるか分からなかったり。

 堀 券売機のパネルも車いすの低い位置からは見えづらい。のぞき見防止フィルターを無意識に使っているのではないか。

 西條 券売機の下の「蹴り込み」(車いす前部が収まるスペース)が大事。それが十分にあれば画面は見えるし、ボタンにも手が届く。その重要性をもっと多くの人に知ってもらいたい。

 ◇「使える」米国のATM

 堀 ATM(現金自動受払機)はどうでしょうか。これものぞき見防止で画面が見えないとか、いろんなことがある。

 鎮西 ATMもクレジットカードも暗証番号を押すタッチパネルは、防犯上の観点から、数字のボタンがバラバラに並んでいたり、囲われてボタンとボタンの間が狭かったりするところがある。僕は手も不自由なのでとても押しづらい。

 西條 自分も手が不自由だが、指の腹ではなくて、ボタンは関節で押している。そういうことが想定されていない。

 永谷 コンビニでは、ATMコーナーまで行けないことが多い。搬入された商品が通路にたくさん置いてあって。店員にそれを訴えると、ちょっと面倒くさそうにされる。

 堀 ATMも券売機と同様に、蹴り込みが足りないものが多い。米国のバンク・オブ・アメリカではATMが横の壁から突き出る形になっていて、足元が完全に空洞になっているものがあるそうだ。

 鎮西 日本のATMコーナーって、車いすマークがあるところもあるけど、他のATMと何が違うかというと、荷物置き場の有無くらい。僕ら自身も「ATMってこういうものだ」という思い込みがある。そういう海外の事例も参考に、銀行業界も頑張ってほしい。

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