<孤独の現場から>単身者増で広がる孤独死の不安 安否確認サービスへの登録相次ぐ

2025/03/25 06:02 

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 高齢化や未婚化などの影響で単身者が増え、世代を問わずに孤独死への不安が広がっている。

 そんな中、東京都江戸川区のNPO法人「エンリッチ」が無料通信アプリ「LINE(ライン)」を使って定期的に安否を確認するサービスへの登録者が増え続けている。

 「誰にも迷惑をかけず、尊厳を保った状態で死にたい」

 そう語る人が少なくないという。

 ◇程よい距離感でつながる

 「人とのつながりが希薄な現代社会では、『世話焼き』をするような踏み込んだ関係が築きにくい。ICT(情報通信技術)を活用し、程よい距離感でつながることを目指しています」

 2018年にエンリッチを設立した代表理事の紺野功さん(65)は2月下旬、福祉の専門職らが集まる東京都小平市の「基幹型地域ケア会議」に招かれ、サービスのコンセプトをそう紹介した。

 エンリッチでは、無料サービス1種類と有料サービス2種類を用意している。

 無料なのは、安否確認される本人の「もしも」を両親や兄弟、友人、仕事仲間といった「近親者」に知らせる「見守りサービス」だ。

 「毎日」や「毎週1回」など任意の頻度で送信される安否確認のメッセージに本人が「OK」ボタンをタップして無事を知らせるもので、OKがない場合は24時間後にメッセージが再送される。

 その後3時間以上たってもタップがないとエンリッチが本人に電話をかけ、それでも無事が確認できない場合は近親者に電話する。

 一方で、電話番号などの個人情報を教えたくなかったり、知らない番号からの電話に出たくなかったりする人もいる。

 そこで、本人がエンリッチから送信される安否確認のメッセージに反応しない場合にのみ、近親者に通知が届く有料の「安否通知サービス」(月額330円)を提供している。

 有料のもう一つは、LINE上のグループのメンバーに任意の頻度で一斉に安否確認のメッセージを送る「つながりサービス」(月額550円、1年分をまとめて支払う場合は5500円)だ。それぞれがOKをタップして無事を確認し合うもので、OKがない人がいる場合、メンバーが安否確認に乗り出す。

 ◇利用者の半数は40、50代

 警察庁によると、24年1~6月に自宅で死亡した1人暮らしの人は全国で3万7227人(暫定値)いた。多くは65歳以上の高齢者だが、64歳以下も8826人に上った。

 国立社会保障・人口問題研究所が24年にまとめた「日本の世帯数の将来推計」によると、20年の世帯総数は5570万世帯で、ピークの30年には5773万世帯に増えるが、その後は減少に転じ50年は5261万世帯になると見込まれる。

 20年と50年を比較すると、「夫婦と子から成る世帯」「夫婦のみの世帯」「ひとり親と子から成る世帯」はそれぞれ減少する。

 だが、「単独世帯」は215万世帯多い2330万世帯となり、全体に占める割合は20年より6・3ポイント高い44・3%に達すると予想される。

 こうした状況を背景にエンリッチにはここ数年、安否確認される本人や近親者らを含め年間4000人前後の新規登録がある。運営にかかる費用は、有料サービスの利用料と寄付金で賄われている。

 これまでの延べ登録者数は2万人弱で、約半数は40代と50代で占められる。

 その年代が多いことについて紺野さんは「先のことが気になり始める時期なのでは」と推測する。

 「突然死、孤独死の不安があるが地方での1人暮らしで友人も知人もいない」(40代女性)

 「死んでしまったときに借家を汚すのはしのびない」(20代女性)

 登録者へのアンケートでは、孤独死への不安に触れる人が目立つ。

 ◇つながりを「ゼロ」から「イチ」に

 24年には、個人の内面の問題と捉えられがちな孤独・孤立を社会全体の課題と位置付ける孤独・孤立対策推進法が施行された。

 しかし、紺野さんは「何をしたらいいか分からない自治体は多いのではないでしょうか」と指摘する。

 一方で、団地内の単身者三十数人がエンリッチの「つながりサービス」を利用している例もある。

 定期的に「OK」が並ぶだけではなく、地震発生時に身の安全や建物の無事を確認し合うやり取りも生まれた。

 紺野さんは「LINEという身近なツールを使い、つながりがないところにつながりを生む。『ゼロ』を『イチ』にする第一歩として、個人だけでなく行政にもこのサービスを使ってもらいたい」と呼び掛けている。【千脇康平】

毎日新聞

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