南海トラフ地震、「臨時情報」への対応は? 避難意識向上に課題

2025/03/31 15:20 

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 国の有識者会議が31日に公表した「南海トラフ巨大地震」の被害想定は、2012年の前回想定から10年以上を経ても人的被害などがなかなか減らない現状が示された。大地震の兆候を見逃さず避難につなげて被害を減らすことが求められるが、24年8月に初めて発表された南海トラフ地震臨時情報のきっかけとなった日向灘地震があった宮崎県では、多くの課題が浮かび上がっている。

 ◇「情報の種類や内容を知っている」18.9%

 「臨時情報については仕組みや、取るべき行動が十分に理解されているとは言えない」。3月6日に開催された宮崎県議会の常任委員会で、中尾慶一郎危機管理局長は現状を吐露した。

 県は24年12月~25年1月、沿岸部の10市町の津波浸水想定区域やその周辺の18歳以上の住民7000人を対象に意識調査を実施(回答率44・4%)。臨時情報で発表される情報の種類と内容を「知っている」と答えた人は18・9%で、取るべき防災対応などを知っている人は4・9%にとどまった。

 臨時情報を受けての行動については「水や食料の備蓄確認をした」が45・8%、「非常用持ち出し袋の確認をした」が37・1%だった一方、20・2%が「何もしなかった」と回答した。

 中尾危機管理局長は「さらなる周知やわかりやすい啓発が課題」とし「迅速な避難に結びつくよう、市町村や関係機関と連携しながら県民の避難意識の向上に努めていく」と説明した。

 国の有識者会議の想定によると、全国で死者が29万8000人と最大になる最悪ケースでの宮崎県の死者数は3万3000人。県などは12年以降、それまでゼロだった避難タワーなど26の津波避難施設を整備したほか、防災士の養成を進め12年の11倍にあたる7487人を確保した。20年度末で84%だった住宅耐震化率を上げるため、耐震診断や改修の公的支援制度のPRに力を入れるが、12年の前回想定より死者数は1000人減ったにすぎない。

 ◇1週間の事前避難 高齢者らへの対応に苦慮

 国の有識者会議は早期避難意識が高ければ、死者数は相当程度減らせると強調する。とはいえ、臨時情報の対応一つ取っても対策は道半ばなのが現状だ。昨夏は臨時情報の「巨大地震注意」にとどまったが、より切迫度が高い「巨大地震警戒」が出れば、高齢者らに1週間の事前避難を求めるなど具体的な対応が必要となる。にもかかわらず、自治体の対応策の整備はこれからの部分が多い。

 日向灘地震で最大震度6弱を観測した同県日南市は、南海トラフ地震発生後30分以内に津波による30センチ以上の浸水が発生する「特別強化地域」に指定されている。海岸沿いのほぼ全域から要配慮者を避難させる必要があるが、どこへ、どのように避難させるかといった手順は固まっていない。避難者が過ごす施設の確保も課題で、市危機管理室の担当者は「場合によってはホテルの借り上げも必要となるが、費用面などで国や県の財政支援が必要だ」と訴える。

 宮崎県北部の延岡市は、津波浸水の恐れがある沿岸部を「高齢者等事前避難対象地域」に指定する。事前避難の段階で配慮が必要な避難者向けの「福祉避難所」開設をどうするかといった課題が見えた一方、自治体単独で対応する難しさを痛感している。専門的知識を持つ職員は限られ、市危機管理課の担当者は「事前避難の準備や段取りを国や県に示してもらいたい」と困惑する。

 一方、昨夏の臨時情報は夏休みやお盆の時期と重なり、宮崎県内の宿泊施設で予約キャンセルが相次いだが、多くの交通機関や宿泊施設はキャンセル料を免除する措置を取った。県ホテル旅館生活衛生同業組合の有田恒雄理事長は「臨時情報によるキャンセル発生の公的補塡(ほてん)の仕組みはなく、予約客にキャンセル料を払っていただく対応も考えなければならない」と話した。【下薗和仁】

毎日新聞

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