目が見えないのは「さずきもん」 最後の瞽女が教えてくれたこと
20代で視力を失った広沢枝里子さんが瞽女(ごぜ)を知ったのは、大学時代からの親友が見せてくれた詩画集「絵日記 瞽女を訪ねて」。自身の目で見て感動した最後の絵になった。
◆瞽女さんが美しく描かれていました。視力はほとんどなくなって手書きを印刷した文字は読めなかったので、親友が読んでくれました。見えなくなっていく不安の中で、こんな生き方があるんだと衝撃を受けました。
20年以上たち、「最後の瞽女」と呼ばれる小林ハルさんを紹介した下重暁子さんの著書「鋼の女(ひと)」を音訳CDで聞き、再び瞽女に触れた。
◆ハルさんの生き方がまた衝撃でした。3日後、担当するラジオ番組が日本民間放送連盟賞ラジオ放送活動部門で表彰され、偶然にも審査員の下重さんに会いました。感動冷めやらぬうちで「ハルさんは101歳。会うなら今」と連絡してくれました。
ハルさんは新潟県の養護盲老人ホームで暮らしていた。
◆お土産のおまんじゅうを差し上げようとすると「おてえらにおねげえしてえ」と言うのです。特別扱いしないでほしいという意味でした。差別を経験してきた人の言葉だと思いました。「みなさんで」と言ったら受け取ってくれました。平等の権利を主張するのとは違う、無私の心を感じました。
「もう歌っていただくことはできませんよ」と施設長さんに言われましたが、ハルさんは「瞽女とニワトリは死ぬまで歌わにゃなんねえ。一つ歌ってくれと言われたら歌わにゃ」と。思わず「一つ歌ってください」とお願いしてしまいました。ハルさんはすっと体を伸ばし、歌ってくださいました。施設に来た人はお客さん。頼まれたら歌う心構えです。
言葉は聞き取れませんでしたが、学生時代に上田市の独鈷山(とっこさん)の山頂でキャンプした時の体験を思い出しました。風が原因なのか、山がグワーっと鳴ったのです。その時と同じ感覚でした。冬の越後の川で、歌の寒稽古している少女の姿が目に浮かび、風景が色付きました。それなのに歌い終わったハルさんは静かにたたずんでいるだけ。神聖な姿でした。
瞽女唄を歌えるとは思いもしなかったが、「点字毎日」の記事で、瞽女が世界で評価されていることを知り、「何かが動き出した」。瞽女唄を伝承する新潟市の萱森直子さんに出会い、2014年に弟子入りする。
◆20年続けた障害者支援のピアカウンセラーの仕事に区切りを付けた時期でした。ハルさんが晩年に教えた萱森先生のCDを聴き、東京公演に出掛けました。「祭文(さいもん)松坂」の「佐倉宗五郎」という唄は、伴奏は単調ですが、墨絵の鳥獣戯画のような絵が目に浮かび、動いているように感じられました。ロビーであいさつした時、「習わせていただいていいでしょうか」と口が勝手に動いていました。
瞽女唄は、何よりお客さんに楽しんでもらうことが大切だと言われる。
◆習い始めて1年たたないうちに、呼ばれたらどこでやってもいいと先生に言われました。上手、下手ではありません。私もいろいろな人と喜びを分かち合うのが楽しいのです。
65歳の誕生日から「瞽女唄うたい」を名乗ることに。
◆唄の「伝承者」と新聞で紹介されたこともありますが、それは萱森先生で私は違います。好きな唄を歌っているだけ。瞽女さんは10年やって本瞽女と言われ、いわば一人前。私も始めて10年たち、自分にふさわしい呼称を探していました。
ハルさんは「さずきもん(授かり物)」という言葉を大切にしていた。
◆人との出会いや経験は「授かり物」。目が見えないことは圧倒的に不自由ですが、瞽女唄に出会ってみると、それも授かり物と思い直せました。全部最初から計画されていたとさえ感じます。
特に大学時代からの親友は生涯に渡って支えてくれています。萱森先生を訪ねた時も同行してくれて、彼女がいなかったら、今の私はなかったと思います。
◇広沢里枝子(ひろさわ・りえこ)さん。
1958年、静岡県沼津市生まれ。長野県に住んだのは上田市の長野大入学から。一時離れて、現在は東御市在住。盲導犬をパートナーに、「越後瞽女唄探求の旅」として演奏活動をしている。毎月最終土曜日の午後4時から30分間、信越放送(SBC)ラジオで、さまざまな分野で活躍する人を呼ぶ「里枝子の窓」のパーソナリティーを務め、同名のホームページでは普段の活動などを紹介している。
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