SNSにあふれる中傷 問われる個々人の人権感覚 生活保護費判決

2025/06/27 21:59 

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 「いのちのとりで」が守られた――。生活保護費の減額を違法と断じた27日の最高裁判決。過去最大の基準額引き下げが始まってから12年を経ての司法による救済に、受給者側には「裁判所が役割を果たしてくれた」と安堵(あんど)の声が広がった。

 生活保護費の減額を違法とした27日の最高裁判決は、人間が人間らしく生きるため、行政が果たすべき役割を示した。適正な支払いを求める受給者に対し、国は誠意を持って対応していく必要がある。

 生活保護費が増える中、自民党は2012年の衆院選で、生活保護の給付水準10%引き下げを公約に掲げて政権に復帰した。厚生労働省は減額調整の一部を専門家部会に諮らず実行した。最高裁の「合理性を欠く」との指摘は重い。

 憲法25条は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を定め、給付の実務を定めた生活保護法はその理念に基づく。生存権をないがしろにすれば経済的弱者はさらに弱い立場に置かれ、個人の尊厳は踏みにじられる。訴訟で争われたのは違法、適法の結論だけではない。人権を大切にする国なのか否かだ。

 SNS(交流サイト)には原告らに対し「もらえているだけありがたいと思え」といった投稿があふれる。弁護団は申請をためらう人が出てくるのではと危惧する。不当な生活保護バッシングは新たな人権侵害につながりかねない。私たち一人一人が生存権の意味を考えたい。【巽賢司】

毎日新聞

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