百日ぜき流行、なぜ今? コロナ対策の免疫低下が「副作用」に

2025/07/08 16:55 

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 長引く激しいせきが特徴の「百日ぜき」の感染拡大が止まらない。8日には1月からの累計患者数が3万9672人(速報値)と、これまで最多だった2019年の2・4倍となった。過去に例のない流行の背景を探った。

 ◇重症の乳児、搬送相次ぐ

 国立健康危機管理研究機構の速報値によると、6月23~29日の1週間の患者数は3353人。現在の集計方法になった18年以降で最多を更新した。6月に入って1週間当たりの患者数は3000人を超え、3週目以降増加傾向が続く。

 速報値では重症者や死者数などは明らかになっていない。受け入れる医療機関はどうなっているのか。

 東京都立小児総合医療センター(府中市)には、ワクチン接種前の生後2カ月未満の乳児や、基礎疾患がある子どもの搬送が相次ぐ。

 百日ぜきワクチンは現在、生後2カ月以降に接種する「5種混合ワクチン」に含まれる。堀越裕歩・感染症科部長によると、接種前に感染すると肺で細菌が増え、作り出される多くの毒素で肺が傷む。このため人工呼吸器を使っても肺の機能が回復せず、やがて心機能も落ちる。この状態になると人工心肺装置(エクモ)を使うが、救命率は高くない。

 都立小児と同様に、高度な医療を提供する全国の施設を堀越さんが調査したところ、昨年は2人、今年は4人の乳幼児が死亡していた。「ワクチンには毒素に対する抗体を作り、重症化を防ぐ効果がある。打っていないと新生児期を過ぎても重症化することがある」。堀越さんは注意を呼びかける。

 ◇流行の二つの理由

 過去に例のない流行はなぜ起きているのか。

 一つ目は、生後2カ月以降に定期接種したワクチンによる感染予防の効果が次第に弱まるためだ。実際に小中学生の感染者が多いとの報告が都道府県の集計で明らかになっている。

 二つ目は新型コロナウイルス感染症の影響だ。国内では20年に発生して以降、感染対策が徹底され、数年間は呼吸器感染症になる人がほとんどいなかった。別の感染症医は「百日ぜき菌の感染による免疫がなくなり、集団として感染が急激に拡大しやすい素地ができてしまった」と解説する。

 基礎疾患のない大人や子どもは重症化しにくい。通常の風邪と思って治療がおろそかになり、感染を広げている可能性もあるという。

 治療をする上でも問題が起きている。通常使われる抗菌薬に耐性を持つ百日ぜき菌が増えているためだ。都立小児では、細菌が耐性を持つ割合が9割を占める。別の種類で効果がある抗菌薬があるものの、新生児には使いにくいことが現場を悩ませている。

 ◇ワクチン供給間に合わず

 流行を抑えたり、新生児の重症化を予防したりする上で重要とされるのが、追加のワクチン接種だ。発症予防の効果が薄れる小中学生らや、妊婦への接種が呼びかけられている。

 ところが急激な感染拡大でワクチンの供給が間に合わない事態も生じている。主に追加接種で使われる3種混合が10年ほど前に定期接種でなくなり、生産数が限られているためだ。

 首都圏を中心に小児科クリニックを41カ所運営するキャップスクリニックの統括医師、寺原朋裕さんは「クリニック全体で、3月に比べ4月は100倍以上の接種の希望があった」という。だが4月下旬から入手困難な状況で、現在も入荷のめどは立っていない。

 寺原さんは「流行する以前から追加接種を呼びかけていた側としては歯がゆい。特に新生児がいる家庭では感染対策を徹底し、感染者が出た場合には可能な範囲で隔離などの対策を取ってほしい」と訴える。

 流行はいつ収束に向かうのか。堀越さんによると、季節性インフルエンザでは学校が冬休みになるタイミングで収まる例が過去にはあった。それを踏まえ「夏休みで感染拡大に陰りが見えるか注視したい。休みでも油断せず、気になる症状があれば受診してほしい」と話す。【渡辺諒】

毎日新聞

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