稲庭うどんの「切れ端」が人気 “高級品”イメージでも割安で気楽に

2025/07/12 15:01 

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 物価高が続く中、秋田県の特産品「稲庭うどん」の切れ端が人気を集めている。産地の湯沢市内などでは袋いっぱいに詰められた品が並び「割安でおいしい」と注目され、県内外から通りかかった人が買い求めている。以前は惜しみつつ有償で廃棄していたメーカーが有効利用を通して新たな地域貢献を目指しており、関係者は「『稲庭うどんは高級品』というイメージになりがちだが、本当はもっと気楽に食べられる。さまざまな食べ方を試してほしい」と話す。

 切れ端の有効利用を積極的に進めているのは「稲庭うどん小川」(湯沢市)。同社は小麦粉や栗駒山系から湧き出る名水、海水塩などを原材料に無添加の手作りの麺を製造している。以前は製造の過程で毎月約200キロの切れ端が出てしまい、商品になりづらいうえに再利用も難しく、その多くを廃棄せざるを得なかった。切れ端は約3センチで正規品より短いが、味そのものは変わらない。

 こうした中、2023年から同社はこの切れ端を湯沢市や横手市、秋田市、東成瀬村の高齢者福祉施設や子ども食堂などに寄贈し始めた。東成瀬村のデイサービスセンター「風鈴」では寄贈された麺をお好み焼きの生地や団子の形にして無駄なく調理し提供。施設に入居する高齢者に喜ばれている。

 風鈴の伊藤和也・生活相談員によると、利用者にはかむ力が衰えた90代の人もおり、「うどんの麺が元々短いと、かえって食べやすく感じる。利用者みんなで団子を作ることもあり、手作業が高齢者にとっては脳の刺激になる。物価高で運営経費がかかっているので定期的に寄贈をいただけるのは本当にありがたい」と話す。

 大きな袋に入った切れ端は湯沢市の「道の駅おがち」の人気商品の一つだ。店頭では1キロ1080円で販売している。同社は、このほか敷地内に随時特設スペースを設け、そうめんを2キロ800円、太めんを2キロ1200円(いずれも税抜き)で不定期に販売している。一般的にスーパーで売られている正規品は200グラムで600円(同)ほどで、かなり割安だ。6月28日に道の駅おがちを通りかかって早速買い求めていた山形県河北町の会社員、後藤信太郎さん(49)は「うどんはおいしく食べられれば自分は十分で、見た目や麺の長さはまったく気にならない。お買い得で買えるならありがたい」と喜んでいた。

 同社の小川選子(えりこ)専務によると、切れ端を新たにクラフトビールの開発にもつなげてきたといい「有効利用に取り組んだ結果、24年の廃棄コストを22年比で67%削減できた。持続可能な社会に向けて企業価値の向上につなげていきたい」としている。

 切れ端は施設などの受ける側が本社に取りに来れば無償で、秋田県内にとどまらず岩手県や山形県側からも問い合わせがある。同社では本社の売店でうどんを購入すると、手で二つかみ分の切れ端を無料でもらえるサービスがあり、人気を集めている。「道の駅おがち」でのブースでの特売は随時。日程などの問い合わせは同社(0183・43・2803)。【工藤哲】

毎日新聞

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