認可外施設死亡事件11年 宇都宮市議会、検証委設置の条例案を可決

2025/09/30 16:51 

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 宇都宮市の認可外保育施設「託児室といず」(廃業)で2014年7月、宿泊保育中に山口愛美利(えみり)ちゃん(当時9カ月)が死亡した事件をめぐり、第三者による検証委員会の設置を盛り込んだ条例案が30日、市議会で可決された。検証委への市の関与排除などを求める遺族の声を受け条例案を一部修正。事件から11年が経過し、ようやく本格的な検証が始まることになる。【松沢真美、有田浩子】

 同事件は、保護責任者遺棄致死と暴行の罪に問われた元施設経営者に16年、懲役10年の判決が確定した。元施設経営者と、指導・監督する立場にあった市に計約1億1400万円の損害賠償を求めた民事訴訟では、宇都宮地裁が20年6月、「市が注意義務を尽くしていれば事件が発生しなかった蓋然(がいぜん)性が高い」として市の過失を認め、元経営者と市などに計約6300万円の支払いを命じた。東京高裁が21年12月、1審判決を支持したのを受け市は上告を断念した。

 市は事件後、昼間だけ行っていた施設の立ち入り調査を夜間にも実施(15年~)したり、保育士が事前通告なしに巡回指導したり(17年~)したほか、警察との連携強化を図ってきた。

 また、16年には保育施設などの事故防止や事故発生時の対応をまとめた国のガイドラインが整備された。それに伴い、上告断念後、市は重大事故検証委員会の設置を決め、市医師会や県弁護士会など5人の委員を選んだが、22年5月、遺族は市に「不服」として申し入れ書を提出した。

 24年7月には佐藤栄一市長が、第三者による新たな検証委員会の設置を表明。所管をこども部から行政経営部に変更した。8月26日開会の市議会に、①事件の発生に至った要因の分析②同種の事故の再発防止策の検討③報告書のとりまとめ――などを行う検証委員会設置の条例案を提出した。

 しかし、遺族から市議会に「委員は市と関係ない人を選任してほしい」「関係者の聴取は必須」「報告書の審議に市は関与しないでほしい」などとの声が寄せられ、条例案への明記の要望があった。総務常任委員会で議論した結果、市に条例案の訂正を求めることを決めた。

 市は委員について「市の事務事業および乳児死亡事件と何ら関係のない県外の者」と修正。報告書は検証委員会が作成主体となり完了次第、速やかに市に提出すると明記した。遺族から求めのあった「関係人を必ず聴取」を条例に盛り込むことについては、「委員会で判断すれば呼ぶことができる形になっている」として、求めには応じなかった。

 同日付で検証委員会は設置された。市は首都圏の弁護士会などに委員の推薦を依頼し、人選などの進捗(しんちょく)状況に応じて検証委員会が始まることになる。同事件をめぐっては遺族への謝罪もまだ行われていない。佐藤市長は25日の定例記者会見で「今後、ご遺族から要望あるいはご意見が出てくる場合にはしっかり対応し、納得いく作業となるよう進めてまいりたい」と述べた。

毎日新聞

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