「人ではなく自然が要因」 相次ぐ札幌のヒグマ出没 9月は最多

2025/10/04 09:45 

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 札幌市でヒグマの出没が増えている。9月は71件と月間の出没が過去最多となり、襲われた住民が負傷する事案も発生。西区にヒグマ警報、南区はじめ5区に注意報が発令された。例年、10月は9月よりも増える傾向にあり、市は対策を急ぐとともに中長期的な個体数管理も視野に入れる。

 ◇けが人も

 札幌西署や市によると、9月26日午後8時ごろ、西区平和の平和丘陵公園で犬の散歩中の男性会社員(43)がヒグマの親子と鉢合わせした。にらみ合った後、男性は親グマに右腕をひっかかれて倒れ込んだ。親子は山の中に逃げた。親グマは体長約2メートル、子グマは約1メートルとみられる。市街地付近でヒグマの人身被害が出たとして、道は道内2例目となるヒグマ警報を出した。

 ほかにも、南区藤野で26日以降、出没が相次いでいる。また、10月1日未明、南区南37西10の国道230号で、タクシー運転手がヒグマの親子を目撃した。

 9月の出没は例年、20件前後だったが、今年は過去最多の71件だった。場所は南区が45件、西区が8件と7割強を占める。「例年と異なり、登山道は数件。市街地やその周辺がほとんどだ」(市環境共生担当課)という。

 ◇「人的要因ではなく自然要因」

 市街地への出没増の直接の背景にあるのはエサ不足だ。西区で男性を襲った親グマのものとみられるフンの中身を調べたところ、8割以上が草木類だった。本来のエサである木の実でなく、カブトムシやクワガタの幼虫まで食べていた。

 市によると、西区に限らず市内の山中は、秋のヒグマのエサとなるドングリなどの木の実があまりないという。一方、24日以降、断続的にヒグマが目撃されている手稲区稲穂は、クルミなどの木があり、実が落ちていた。また、人の生活圏に近い河川敷や山裾にあるオニグルミは、ドングリに比べると、育ちが悪くない状況だという。

 市の委託でヒグマを調査するNPO法人EnVision(エンビジョン)環境保全事務所の早稲田宏一研究員は人里に出る個体が増えたのは「(ゴミの出し方などの)人的要因でなく、自然要因」と説明する。

 拍車をかけているのが、昨秋の「豊作」による多産だ。豊富な山中の木の実を食べて、栄養状態が良好な雌が多く子を産んだという。今年は打って変わっての「不作」。個体数が増えたことも手伝い、食べ物に困った親子グマが市街地に現れているとみられる。

 ◇駆除最優先

 出没増を受け、市は監視カメラや電気柵の設置を進めており、出没を誘引する樹木の除去も検討する。秋元克広市長は2日の定例記者会見で「市民の安全を考え、市街地近郊は駆除最優先で対応したい」と述べた。また、市の中長期的な方針として、「個体数管理についても、少し踏み込んで考えていく必要がある。有識者の意見も聞きたい」との見解を示した。

 西区で男性を襲った親グマのフンからとったDNA型を鑑定したところ、2015年に現場から南に約4キロの砥石山で採取した個体のDNA型と一致した。この10年で人との間であつれきを起こしておらず、「問題個体」としてマークされていなかった。

 地方独立行政法人北海道総合研究機構の釣賀一二三シニアアドバイザー(野生動物)は「本来の生息地に食べ物がなくなり、行動範囲が広がっている。元々、出ていなかった個体も人里に現れていると考えられる」と指摘。早稲田研究員は「昼に出るのか夜に出るのかも含め、有害性をしっかりと判断しなければならない」と強調する。

 市環境共生担当課は「一つ段階が上がったと認識する必要がある。自分がヒグマに遭遇すると考えることは難しいが、生息地に隣接したところで暮らしていると忘れないでほしい」と呼びかけている。【水戸健一】

毎日新聞

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