紅こうじサプリの被害女性「生活一変」 乏しい情報、孤独な補償交渉

2025/12/16 17:57 

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 小林製薬の紅こうじサプリメントの健康被害問題で、神戸市内の70代の女性はサプリ摂取後に急性腎障害と診断されて生活が一変した。健康への不安からボランティア活動や旅行を控える一方、1人で会社と補償交渉を続けた。補償は認められたが、情報がなく、示された金額が妥当かどうかも分からないままで、サインできずにいる。補償が認められた被害者は11月末で500人。取材では孤立した被害者の姿が浮かびあがった。【山本真也】

 11月、小林製薬から女性宛てに送られた文書には補償額とともに「弁護士と相談して算定した」と記されていた。

 女性は同社に補償の算定基準を明らかにするよう求めていた。基準が示された書類は同封されておらず、「私の受けた被害に対して妥当な金額なのか。他に情報がないのでよくわからない。合意書にサインするかはもうしばらく考えたい」と話す。

 ◇健康不安から外出控え

 女性が紅こうじサプリを飲み始めたのは2021年8月。健康診断でコレステロール値が高いと指摘されたことが気になり、電話で購入した。その2、3年前から同社の黒酢製品を飲んでいて、同社の商品になじみがあったという。

 毎日飲んでいたが、24年2月ごろから倦怠(けんたい)感や食欲不振の症状が出るようになった。原因がサプリとは結びつかず、摂取を続けた。

 だが、同年3月22日に同社が健康被害と製品の自主回収を発表。女性は同社に問い合わせて問題のロットを飲んでいたことを知った。翌月、病院で急性腎障害と診断され、約1週間、入院した。

 それから1年半たって腎臓の数値はようやく正常値になったが、通院を続ける。腰の圧迫骨折も同時に見つかり、生活はすっかり変わった。60歳で会社を定年退職後、視覚障害者への朗読ボランティアに取り組み、年2回の国内外の旅行を楽しみにしていた。だが、急性腎障害と診断を受けた後は体調に不安があるため、外出を控えるようになった。

 被害の認定や補償を受けるため、体調が悪い中で、同社と電話や書面でやり取りをし、書類を何枚も書き、診断書や領収書を集めた。だが、担当者によって言うことがバラバラで、連絡を約束した日に連絡が来ないなどの行き違いもあって、不信感を持ったという。また、同社はこれまで、被害者を集めた説明会は開いておらず、女性は「まずは会社の責任ある人間が直接、謝罪してほしい」と求めている。

 これに対し、同社は「過去にお客様対応に不適切な事例があり、申し訳なく思っている」とし、現在は補償対応の専門部署を置いて改善を図っていると説明。被害者説明会については「一人一人の症状や治療の状況が異なるため一斉に説明するのではなく、個別に電話や訪問で謝罪と補償の説明をしている」とする。

 ◇今なお続く治療、補償対応

 同社によると、11月30日現在で補償対象となっている500人のうち290人は治療が継続していたり、補償内容の協議が続いたりしている。他に370人からの補償申請を受け付け、うち340人が補償対象外となった。

 24年10月に結成された「紅麹サプリ被害救済弁護団」には約130件の相談が寄せられ、現在約30人の損害賠償交渉を進めている。副団長の菅聡一郎弁護士(大阪弁護士会)は「他の被害者と情報共有する機会に恵まれず孤立している被害者も多いのではないか。会社側から一方的な情報しかないため、提示された補償額や損害認定の根拠が本当に適正なのか、悩んで相談してくる人たちが多い」と話している。

 ◇紅こうじサプリメントの健康被害

 小林製薬が24年3月に被害報告があることを公表。大阪市は同年10月、紅こうじに混入した青カビ由来のプベルル酸が原因物質として、食品衛生法に基づいて食中毒と判断した。25年3月の最終報告書では症状が多岐にわたるなどの理由で食中毒の被害者の規模は特定しなかった。小林製薬には被害公表の2カ月前に医師から最初の被害の報告があり、市は「被害を複数探知した段階で行政に報告していれば、被害拡大の防止につながった」と指摘した。

毎日新聞

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