冬の水温に耐えられないはずが…オオクチユゴイが愛媛県で初採集

2025/12/22 11:51 

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 インド太平洋の熱帯、亜熱帯域を中心に分布する魚・オオクチユゴイ(ユゴイ科)が、愛媛県愛南町の柏川(かしわがわ)で採集され、標本となった。同県内では初の記録。稚魚のうちに太平洋から黒潮で運ばれても、周辺では冬の水温に耐えられずに死んでしまうと思われていた南方系の魚だが、ひと冬以上を越したとみられる立派な体格。他に20匹ほどが泳いでいるのが目撃され、水温変動の影響で繁殖できるようになったことをうかがわせている。

 愛媛県野生動植物保護推進員の清水孝昭さん、筑波大大学院生の山川宇宙さん、環境調査会社員の森口宏明さんが9月22日、県最南端の愛南町にある柏川の河口付近で採集し、11月にウェブサイト「南予生物フィールドノート」(南予生物研究会編)に発表した。このオオクチユゴイは体長約22センチ。すばしっこい習性で、水深40~50センチの川で石の陰などを逃げ回ったが、3人が2時間ほど追い回し、手網で捕まえることができた。周囲を泳いでいた20匹ほどは5~15センチ程度で、大きさの違いから少なくとも2世代にまたがる定着・繁殖が考えられるという。

 魚類の生息状況に詳しい清水さんによると、オオクチユゴイは海域で産卵して稚魚は川で育ち、寒くなると海に戻る生態が一般的。稚魚がいったん川に運ばれても冬は生きられない「死滅回遊」はあっても、この地域での越冬はできないと考えられていたが、「冬の水温が温かくなっているのか、少なくとも1年は生き残り、それなりの数が育ってきている」と、環境変化が裏付けられそうだという。

 1995年には高知県須崎市の川で体長約4・5センチまでの幼魚2匹が採集され、標本は当時、「オオクチユゴイの北限記録」とされた。だが、2010年には同県の四万十川近くの海域で成魚が確認されるなど、分布状況は年を経るごとに変わっている。

 「南方系の魚が見られる北限が宇和海から瀬戸内海へ、宇和海南部から北部へと次第に変化し、これまで見られなった魚が見えている」と清水さん。今後も詳しい生息状況を調べることにしている。今回のオオクチユゴイの標本は徳島県立博物館に寄贈される。【松倉展人】

毎日新聞

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