「父の無念の死に涙止まらず」 戦争遺族会が寄稿集 福岡・筑後

2025/12/22 10:45 

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 戦争体験を後世に残すため、福岡県の筑後市遺族連合会が、初の寄稿文集「戦争の記憶――未来の子供達の平和を願って」を作成した。激戦地で戦死した父親の遺骨も受け取らないまま死を受け入れなければならなかったつらさ、大黒柱を失い戦中・戦後を生き抜いた家族の苦労など、戦没者遺族のそれぞれの物語に戦争がもたらした影響の大きさが浮かび上がる。

 会長の長瀬武夫さん(81)によると、同会は戦後80年を翌年に控えた2024年、遺児らが高齢化しており、今のうちに記憶を書き残して戦争の「実情」を次世代に知ってもらおうと、会員260人に寄稿を呼びかけた。一部は役員が聞き取る形で32人分を集めた。

 長瀬さんも執筆者の一人。父隆夫さんは1944年2月、34歳で陸軍に召集され、わずか8カ月後の10月、台湾―フィリピン間のバシー海峡で戦死した。海峡は日本軍の重要な物資輸送ルートで、輸送船の多くが米軍の魚雷攻撃で撃沈され「輸送船の墓場」と呼ばれる。父が乗船した「大博丸」も米潜水艦の雷撃を受け、父を含む乗船者のほぼ半数約1560人が犠牲となったという。

 残された家族は生後半年の長瀬さんら5人の幼いきょうだいとその母。長瀬さんは、父の最期と、生計を立てるために戦後「悪戦苦闘」した母への思いをつづった。また06年、慰霊のため戦没地を訪れた際のことを「なんで日本はあんな愚かな戦争をしたのか、父たちの無念の死を思い涙が止まりませんでした」と振り返った。

 「戦争は一人が亡くなるだけでなく、その家族を粉々にする。平和の追求が私たち遺族会の役割だ」と今回の発行への思いを語る。今後、つづられた思いを携え、求めに応じて、学校などでの語り部活動に力を入れるという。冊子は地域の学校や図書館などに寄贈し、希望者には1000円で販売する。問い合わせは長瀬さん(090・5923・4984)。【谷由美子】

毎日新聞

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