世界遺産の風景・吉野の桜を害虫から守れ 保護団体が支援募る
桜の名所で知られる奈良県吉野町の吉野山で今秋、特定外来生物「クビアカツヤカミキリ」による被害が初確認された。この幼虫に木の内部を食い荒らされると、やがて木は枯れてしまう。世界文化遺産にも登録されている名所の桜を守ろうと、地元の保護団体が対策に乗り出し、クラウドファンディング(CF)で費用を募っている。
吉野山を含む「紀伊山地の霊場と参詣道」は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録されている。約1300年前が起源とされる吉野山の桜が見ごろを迎えると、約3万本が織りなすピンク色の景色が谷から尾根へと全面に広がり、多くの観光客が見物に訪れる。
◇被害が拡大
吉野山の桜でクビアカツヤカミキリの被害が確認されたのは今年10月。幼虫のふんが混ざった「フラス」と呼ばれる茶色い木くずが木の幹や根元などから見つかった。吉野山では11月末時点で桜10本の被害が確認されている。
「思っていた以上に広がるスピードが速く、衝撃だった」。桜の保護などに取り組む公益財団法人・吉野山保勝会(吉野町)の米田聖子事務局長は被害木が出たことを知り、がくぜんとした。
クビアカツヤカミキリは中国や韓国などが原産で、貨物などに紛れて日本に入り込んだとみられる。国内では2012年に愛知県で初めて発見された後、全国各地で広がり、18年に環境省が飼育などを禁じる特定外来生物に指定した。
◇廃業に追い込まれたモモ農家も
体長2・5~4センチで、ツヤのある黒い体と赤いクビ(胸)が特徴。幼虫が羽化するまで2年ほどサクラやモモ、ウメなどのバラ科の樹木に寄生し、木の内部を食べて枯死させてしまう。
22年にはクビアカツヤカミキリの被害木の拡散により、約2000平方メートルの果樹園でモモを栽培していた大阪府南部の農家が廃業に追い込まれたケースもある。放っておくと深刻な被害が出ることが懸念される。
◇薬剤で侵入防止を計画
「これ以上、広げてはいけない。ゆっくりしてはいられない」。保勝会では、吉野山の被害木の調査頻度を増やすなど対策を強化しているが、早期の対策の必要性からCFでの資金調達を決意。薬剤を注入することで桜の木々に幼虫が侵入するのを防ごうと計画している。
奈良県景観・自然環境課によると、クビアカツヤカミキリは車などにくっついて移動し、被害を拡大させる傾向があるという。そのため、保勝会の防除作業は、駐車場に近い木や苗木を育てるための母樹など約500本を優先する。
◇対策費用1000万円が目標
防除費用は1本当たり1・5万~3万円で、薬剤費や備品などに計1350万円が必要になる。このうち自己資金などを差し引いた1000万円をCFの目標額に設定した。
防除作業は、自己資金などを活用し、26年1月に始める。クビアカツヤカミキリが成虫になる5月ごろまでに終えたい考えだ。
米田事務局長は「早期に対策しなければさらに広がる可能性がある。吉野の桜を自分たちの代で絶やさないためにも協力してほしい」と呼び掛けている。
CFサイト「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」で2026年1月31日まで募集している。【山口起儀】
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