波打ち際の穴が証人 三大急潮に浮かぶ「来島城」伝える海賊の記憶
「村上海賊」――。湯築城(松山市)を本拠に伊予国(愛媛県)を治め、「海の勢力」を束ねていた河野氏と城の歴史に迫った前回の記事。そこで登場した「海賊」という言葉に、ギョッとした読者もいるかもしれない。
村上海賊の有力三家の一つで、湯築城下に館を構えていたと考えられる来島(くるしま)村上氏は、「来島城」を海の拠点にしていた。同県今治市沖の来島海峡に浮かぶ来島に築かれ、潮流に守られた周囲約850メートルの島全体が城として要塞(ようさい)化されていた。
昨年11月、記者は波止浜(はしはま)港から渡船に乗り込み来島へ向かった。潮流の速さで海の難所とされる来島海峡には、今は大橋が架かる。この海峡を舞台に、かつて海の合戦が繰り広げられたのだろうか。「歴女」の血が騒ぐ。
◇無数の「謎」の穴
島に上陸すると、周囲の岩礁に人工的に掘られた無数の穴があった。引き潮を待って近づいてみると、穴が4、5個ずつ、波打ち際に一直線に並んでいる。観察を続けると、穴の列がいくつもあった。実はこの「謎」の穴が、来島城の歴史を伝える生き証人だった。
謎を解くため、村上海賊の歴史に詳しい同市文化振興課の白石聡さん(51)を訪問。白石さんは「(来島村上氏の)海賊活動に適した城として使われていたのだろう」と話す。
海賊とは一般的に、海上を航行する船舶を襲撃し、暴行や略奪を行う盗賊集団といったイメージだ。映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」のシーンが脳裏に浮かぶ。村上海賊も来島城を拠点に、そんな物騒なことを繰り返していたのか――。
白石さんは、村上海賊の実相について、海峡を通る船から通行料を徴収して水先案内人を務めたり、魚を捕ったりする「海とともに暮らす人々」という面が強かったと解説。一方、高い操船能力で海上での戦いや物資輸送に秀で、室町から戦国時代にかけては河野氏、大内氏、毛利氏など周辺の有力な戦国大名の「海の勢力」として戦った。両者の関係性を示す羽柴秀吉から来島村上氏に送られた花押入りの書状も残る。
白石さんによると、島の岩礁にある無数の穴は、かつて縄で船をつなぎ留める柱(係船柱(けいせんちゅう))を立てるために使われていたという。海に向かって一列に垂直に並んでいたのは、潮の満ち引きによって船をつなぐ場所が変わることを考慮していたため。島で最も高い海抜約47メートルの場所からは「島の周囲を通る船の通行が見渡せたはず」と白石さんはみている。
村上海賊には来島村上氏、能島(のしま)村上氏、因島(いんのしま)村上氏の有力三家があり、それぞれ瀬戸内海の異なる島を本拠にしていた。そのうち最も四国寄りに拠点を構えていた来島村上氏は、四国側の航路を押さえていたとされる。来島では島の最頂部を含め複数の城郭跡が確認されており、自然の地形を生かし島全体が城の機能を持ち、周囲を通る船の航行を監視していたと推察できる。
来島海峡の潮流は10ノット(時速約18キロ)にも達し、鳴門海峡・関門海峡と並ぶ「日本三大急潮」の一つだ。点在する多くの島や岩礁、海の深さを把握していなければ、船の安全な運航は難しい。船を係留する柱のための穴を島の周囲に無数に設けておけば、異常を発見してもすぐ船に乗って海へこぎ出せる。来島城はまさに、来島村上氏が周辺の海域をパトロールしながら「海上の交通を掌握するための拠点だった」(白石さん)。同様の穴は、能島村上氏が能島城を築いた能島(今治市)でも確認されている。
◇「村上海賊を世界に発信」
来島や能島の他、因島村上氏が拠点を置いた因島(広島県尾道市)など愛媛県と広島県にまたがる芸予諸島には、村上海賊の遺構が多く残されている。こうした歴史を後世に伝承しようと、能島に隣接する大島(今治市)に2004年、村上水軍博物館(現今治市村上海賊ミュージアム)が開設された。16年には文化庁が認定する日本遺産に、今治市と広島県尾道市が共同申請した「“日本最大の海賊”の本拠地 芸予諸島―よみがえる村上海賊“Murakami KAIZOKU”の記憶―」が選ばれた。
「造船、タオル、しまなみ海道で知られていた今治に『海賊』という新たな魅力が加わった。今治から村上海賊を世界に発信していきたい」。日本遺産の啓発施策を担当する今治市文化振興課の小杉孝仁さん(28)は、そう意気込んでいる。
来島に残る「KAIZOKU」どもが夢の跡――。来島の岩場で瀬戸内海の風に吹かれていると、松尾芭蕉が「奥の細道」で詠んだ一句が頭をよぎった。ここへ来ると、村上海賊の世界へタイムスリップできそうだ。【狩野樹理】
◇来島城跡
愛媛県今治市の波止浜港から渡船に乗り5分。「来島」で下船。運賃は片道160円(小児は半額)。自転車の持ち込みは90円。
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