<読む写真>おもちゃの病院 直って喜ぶ子どもを見てうれしい ドクター冥利の現場

2026/01/26 17:34 

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 「わあ、すごい! ちゃんと光った」。女の子は壊れて光らなくなったスティックのおもちゃを目の前で修理してもらえて大喜びした。おもちゃドクターも満面の笑みを見せる。

 壊れたり動かなくなったりしたおもちゃを原則無料で修理するボランティアグループ「神戸・灘おもちゃの病院」。代表でおもちゃドクターの佐藤房夫さん(76)は「直ったおもちゃを受け取る子どもたちの笑顔を見るのがうれしいんですよ」と目を細めた。

 おもちゃドクターは2024年に一般社団法人となった「日本おもちゃ病院協会」(東京都新宿区)の会員。同協会が開いている「養成講座」を受講するか、現役のドクターから指導を受けるなどして技術を学んで腕を磨く。現在おもちゃドクターは全国に約1100人いる。

 同病院は毎月第3木曜日に神戸市中央区の商業施設・神戸ハーバーランドumieで「開院」している。15年10月の設立と同施設での開院はほぼ同時期で、25年には10周年を迎えた。

 壊れたおもちゃは「患者」、修理は「治療」、修理依頼書は「カルテ」と呼ぶ。その場では直せないものは「入院して治療」となるが、歩いたりしゃべったりするぬいぐるみなどの治療は子どもの前でしない場合もある。中身を取り出すことが、子どもたちの夢を壊すという理由だ。治療にはおもちゃドクターの優しさも込められている。

 メンバーの平均年齢は約68歳。ほとんどが退職後に始め、職業経歴は自営業、銀行員などさまざま。女性のおもちゃドクターも少ないが、いる。工具は自前で、交通費も自腹だ。それぞれ得意分野があり、クレーンのおもちゃの治療を得意とする人は「クレーン職人」、動く動物のぬいぐるみが得意な人は「獣医さん」と呼ばれる。3Dプリンターを駆使するドクターもいて、壊れたおもちゃの9割は直すことができる。

 治療方法に悩むときは気軽に相談してお互いアドバイスをする。コミュニケーションをしっかり取ることでメンバー同士のスキルアップにつながる。真剣なまなざしで治療しながらも時折笑い声も聞こえ「同世代だから話も合う」。この活動がメンバーたちの居場所にもなっている。

 コープこうべや社会福祉協議会などから助成を受けて活動しており、現在は神戸市内を中心に11カ所で開院、巡回診療を実施している。登録会員は約70人、実働約45人のドクターが治療に当たる。

 同病院を発足させた前代表の加藤正博さん(78)は持病が悪化したため、23年に現代表の佐藤さんに引き継いだ。その後も体調が良いときには現役ドクターとして活動する加藤さんは、「神戸市の各区に一つ、おもちゃ病院を作るのが発足当時からの目標。この思いはずっと変わらない」と話す。

 小さな子どもを連れたお母さんが遠くまでおもちゃの修理に来るのは難しい。区役所内や商業施設などが会場を無料で貸し出してくれれば、これまで以上に活動の場を広げられる。大切なおもちゃが壊れても、修理することで思い出も一緒に守ることができる。

 ドクター歴3年の男性(77)は忘れられない出来事があった。24年1月に幼い子を亡くした30代の女性が、亡くなったわが子が愛用していた、楽器を奏でるぬいぐるみを直してほしいと訪れた。無事完治し、再びメロディーを聞いたときに涙を流して喜んでくれたという。

 少子化で子どもが減り、治療するおもちゃも年々減少する。それでもおもちゃを通して仲間や子どもたちと対話できる時間は貴重だ。佐藤さんは「自分たちの手で直せることもうれしいし、直ったおもちゃを手にして喜ぶ子どもたちを見られるのはもっとうれしい。2度も喜びを感じることができるなんておもちゃドクター冥利につきます」と話した。【梅田麻衣子】

毎日新聞

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