無料とは? 安否とは? “やさしいにほんご”で備える防災かるた

2026/03/07 15:45 

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 むりょうとは おかねがいらない ことですよ――。

 分かりやすい日本語で防災の知識をまとめた「やさしいにほんごでぼうさいかるた」(白泉社)の読み札の1枚だ。ペアの絵札には避難所で飲食物が支援物資として配布される様子が描かれている。作者はつくば市の防災士、水谷浩子さん(65)。読み札には英語も併記した。日本語を習い始めた外国人や子どもなど誰もが一緒に楽しみながら防災を学ぶことができる。

 水谷さんが防災士になったのは、2011年3月の東日本大震災がきっかけだった。当時、つくば市内の賃貸管理会社に勤めていた水谷さんは、揺れが少し収まると社員同士で手分けして入居者の安否確認にあたった。

 マンションのエレベーターが止まり、11階の部屋から出られなくなっていた車椅子の女子大生を、水谷さんが背負って階段を下った。災害時、障害者や外国人など災害弱者を守れるのは地域であり、周囲の人との助け合いだと感じた。これらの経験を踏まえ、18年に防災士の資格を取得した。

 その後、知人の誘いで外国人の母子と易しい日本語でおしゃべりするサークル活動に関わるように。コロナ禍で対面での集まりが制限されていたころ、サークルのオンラインイベントで防災の話をすると、ある外国人の母親から打ち明けられた。

 「日本は地震が多いと知っているが、毎日の生活で精いっぱい。いざとなった時どうすればいいか分からない」

 この言葉に、水谷さんは夫の転勤に伴ってスイスで暮らした30年以上前の日々がよみがえった。スイスは大雪に見舞われるが、幼かった子ども2人の育児に忙しく、雪の備えまで手が回らず不安に駆られた。

 異国の地で暮らす人の気持ちは十分に分かった。「何とかしなきゃいけない」。考えた末に行き着いたのが、かるただった。22年に製作し、24年には白泉社から商品化された。

 かるたは、飲み水を最低3日分用意することなど防災の知識に加え、「安否」といった難しい単語を「げんきでいるかがわかること」などと平易な日本語で説明する。

 「無料」も大事な言葉の一つ。支援物資の配布などの場面で登場すると想定される。水谷さんはスイスで「外国人」として生活した経験から「言葉も通じず、知り合いもいない中で物をもらうのには勇気がいる。特に災害時、お金を払わなくていいこと以上に『自分は受け入れてもらえた』という安心感につながる」と話す。

 外国人だけでなく、小中学校や各種イベントなどでかるたの普及に力を注ぎ、これまで3000人以上が体験した。易しい日本語を知ることで、英語が話せない日本人でも外国人を助けることにつながる――。その思いから活動を続けてきた。

 一方、かるたの普及に取り組むうちに水谷さんの中で迷いが生じた。宮城県石巻市の旧大川小で子供を亡くした父親の話を聞くなどし、震災で想像を絶するような悲しみを経験している人と出会った。つらい思いをしたわけではない自分が語るのは失礼ではないか――。

 葛藤する中で見いだしたのは、かるたが災害から命を守り未来につながる可能性だった。水谷さんは「被災地の人たちも、次は絶対に命を守ろうと思っている。未来につなげたいという思いは同じだと感じた」と語る。

 かるたのケースには防災バッグや水などを用意した人、ハザードマップを持っている人、さらには友だち同士のイラストを描いた。災害時に重要な自助や正しい情報、共助を表した。

 「かるたを通じてみんなが自分の命を守り、そしてお互い助け合える世界を作っていきたい」。震災から15年、普及にかける思いは強くなっている。【鈴木敬子】

毎日新聞

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