「途切れたら…」 錦富士が142年続く大記録守る 大相撲秋場所

2025/09/26 16:47 

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 142年も続く記録は守られそうだ。

 大相撲秋場所13日目の26日、青森県出身の十両3枚目・錦富士(29)が来場所の再入幕を確実にした。元大関の朝乃山を上手投げで降し、10勝3敗とした。

 青森出身の幕内力士は、1883(明治16)年5月場所の一ノ矢(最高位は大関)から一度も途切れたことがない。

 ところが今場所、青森出身で唯一の幕内力士だった前頭12枚目の尊富士(26)が休場し、来場所の十両陥落が濃厚に。11月の九州場所では「青森勢幕内」の記録が途切れかねない状況だった。【飯山太郎】

 ◇向き合った重圧

 錦富士と尊富士は、同じ伊勢ケ浜部屋に所属する。昨年3月の春場所では弟弟子の尊富士が110年ぶりの新入幕優勝を果たした。

 しかし、尊富士は今年7月の名古屋場所で右腕を痛めて途中休場し、その後は手術を受けた。続く秋場所も、初日を2日後に控えた9月12日に休場を届け出た。師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱・照ノ富士)は、尊富士を秋場所は全休させると明言していた。

 そんな状況で兄弟子の錦富士が白星を重ね、故郷の先達がつないできた「幕内の系譜」を守った。

 重圧と向き合った錦富士の最高位は前頭3枚目で幕内在位16場所、三賞1回の実績も持つ。幕内で相撲を取るのは今年3月の春場所以来、4場所ぶりとなる。

 ◇2位に100年近い差

 相撲どころとして知られる青森は、数々の名力士を輩出してきた。

 横綱なら鏡里、初代若乃花、栃ノ海、2代目若乃花、隆の里、旭富士の6人。大関なら戦前は一ノ矢、清水川、鏡岩、戦後は貴ノ花と貴ノ浪。名だたる力士が歴史をつむいできた。

 142年続く青森勢の幕内に対し、2位は1982年夏場所の多賀竜(現鏡山親方)以来、幕内に力士が居続ける茨城県の43年だ。

 青森出身の西岩親方(元関脇・若の里)は「2位に100年近い差をつける記録なんて、もうない。この記録は途切れさせてはいけない」と重みを語る。

 ◇「先輩たちが築いた歴史」

 錦富士を支えたのも、ある同郷の先輩への思いだ。

 先輩とは、同じ伊勢ケ浜部屋に所属する十両12枚目の宝富士(38)に他ならない。

 宝富士は「青森勢幕内」の存在を長く守ってきた。新入幕は2011年名古屋場所で、幕内在位78場所。4度目の入幕を果たした13年初場所からは昨年1月の初場所までの11年余り、ずっと幕内の地位を守り続けた。

 青森勢では13年夏場所で新入幕を果たした誉富士が、34歳だった19年秋場所で引退した。17年夏場所で幕内となった阿武咲も、昨年九州場所後に28歳で角界を去っている。

 今場所の初日に白星を飾った後、錦富士は思いをこう語っていた。

 「『142』は、どうしても頭をかすめます。でも、一番苦しい時につないでくれたのが宝富士関でした。先輩たちが築いた歴史で、周りからも言われます。でも、ここで途切れたら、宝富士関の頑張りが報われない」

 26日は近大の3学年上の先輩に当たる大関経験者の朝乃山を、立ち合いで当たり勝ってからの一気の攻めで破った。前日に連勝が6で止まっていたが、錦富士は会心の白星に「いつも良くしてもらっている先輩に、戦術どうこうより、当たって砕けろで行った。今場所一番の内容です」と満足そうに振り返った。

毎日新聞

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