30年間価格据え置き 山形の農家が語るコメの安定生産に必要なこと
コメの価格高騰が続く中、山形県に30年間価格据え置きで「庄内米」の直接販売をしている専業農家がいる。鳥海山のふもとの遊佐町に暮らす元農水官僚、土門秀樹さん(67)。「消費者との絆が頼り」と語り、安定的な生産のためにはコストに見合った価格の維持が必要だと訴える。【聞き手・長南里香】
――30年間同じ価格で販売しています。
◆10キロ6500円(精白米、送料込み)です。30年前、コストに見合った値段を決めてから据え置きです。
米価は1995年にコメの輸入が開始されてから下落傾向でした。約10年前には店頭価格の倍になり、「高い」と言われて新規顧客獲得に苦戦したこともありました。一方、昨年からは「令和の米騒動」の影響で高騰し、我が家のコメは店頭価格(5キロ当たり平均4000円程度)よりずいぶん安くなってしまいました。
――お客の反応は。
◆驚いたことに、心配されたり、「もっと価格を上げてください」と言われたりしました。寄付金を送ってくれた人もいました。コメの発送時に同封している通信文「コメニケーション」で、労働時間の長さや時間給の低さといった、農家の苦境を発信していたからかもしれません。100人超の顧客と長年築いてきた信頼関係が身にしみて、買い支えてもらったことで経営が成り立ってきたことに感謝しています。
――生産コストは。
◆主食用米1俵(玄米、60キロ)生産するためにかかるお金は1万6000~7000円とされています。山形県では近年、主力品種の価格が1万円だった年もあり、全く採算が合いませんでした。消費者はコメは安く手に入る方がいいなどと、価格を相対評価で捉える傾向にあるのではないでしょうか。
――赤字でも作り続けるのには理由があるのでしょうか。
◆先祖代々受け継がれたり、貸してもらっていたりする農地を背負っているからです。国民の主食を生産する水田の機能とともに、地域の生活環境を守り、荒らさずにいい状態で維持していこうという思いも確かにあります。一方で、農業用機械の性能が向上して高齢でも作業ができるようになったので、機械の購入に年金を投入して生産を続けている農家もいるという、いびつな実情もあります。
――安定的な生産を維持するには。
◆コメは日本の大事な食糧であり、単なる商品ではないという認識を忘れてほしくない。現在の店舗価格は、5割も上昇した肥料や燃料などのコストを反映したもので、農家にとっては経営を続ける上での最低ラインです。コストをカバーできる価格政策が必要です。
◇どもん・ひでき
1957年生まれ。東京都出身。東京大農学部(育種学専攻)卒業後、農水省入省。85年に退職し、山形県遊佐町の農家に婿入りして就農。3・2ヘクタールでコメとユリを栽培している。酒田市のコミュニティーFM「ハーバーラジオ」の番組「種まきアンチャのプロフェッショナルトーク」のパーソナリティーを務める。
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