「政策過激で受け入れがたい」 先行き見えぬトランプ関税、企業困惑

2025/05/18 06:45 

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 米トランプ政権の関税措置を巡る日米交渉が続く中、北海道内経済界は先行きの不透明さに警戒感を強めている。特に、対米輸出の主力を担う自動車部品メーカーや、ホタテの米国輸出を強化してきた水産加工会社からは不安の声が上がっている。

 「日々状況が変わり、先が見えない。米国と他国の関係によってドミノ的に影響を受ける可能性もあり、皆さんすごく不安に思っているようだ」

 関税引き上げが公表された4月から情報収集に奔走してきた道国際課担当者は、道内企業の現況をそう説明する。

 北海道経産局も同月、「道米国関税対策会議」を設置し、道や経済団体と対応を協議。北海道銀行など各金融機関は特別融資や相談窓口を設け、事業者支援に取り組んできた。

 函館税関などによると、2024年の北海道から米国への輸出額は計894億円で、全体の約2割にとどまる。このため、目下、道内で大きな影響は見られていない。

 ただ、米国向け輸出のうち約6割を占める自動車部品や、それに次ぐホタテ、鉄鋼の関連会社は懸念を募らせている。

 ◇米大手が独占的に購入も…

 「一体どんな影響が出るのか、正直分からない」。千歳市で自動車部品を製造する「FJコンポジット」の津島栄樹社長は、トランプ大統領の急激な政策に戸惑いを隠さない。

 同社が独自開発した部材は、自動車内の半導体の熱を逃がすもので、米自動車大手「ゼネラル・モーターズ(GM)」が独占的に購入している。

 FJ社は3年前に量産を始め、現在では海外売り上げが全体の8割を占めている。

 津島社長は、世界唯一の技術で生産している部品のため、輸出量の変化はないと見ている。一方で、最も恐れているのは、米国で最終販売価格が上がり、消費者が買い控えした結果、部品の輸出が減ることだ。米中貿易摩擦による世界恐慌も、消費の冷え込みを招きかねない。

 「まだ直接的な影響は受けていないが、トランプ大統領の政策は過激で受け入れがたい」と表情を曇らせる。

 ◇対米輸出増のホタテ業界にも不安

 ふるさと納税で全国上位の紋別市。一番人気のホタテを加工する業者の間でも、不安は広がっている。

 水産会社「丸ウロコ三和水産」は、貝柱のみを冷凍した「玉冷(たまれい)」を年間約1000トン製造しており、昨年は米国に200トンを輸出した。金額にすると約8億円。中国の日本産水産物禁輸措置以降、米国への輸出は2倍に伸びている。

 山崎和也社長は米国と中国が関税引き下げで合意したことを歓迎するが、「取引価格の下ブレは避けられないだろう」という。今後は「国内への安定供給を重視しながら、取引のある商社と情報交換や対応を相談していきたい」と話した。

 別の水産加工会社社長も、ホタテの水揚げが本格化する時期を控え、動向に気をもむ。「関税圧力で米国の取引価格が下がらないか心配。さらに、関税に伴う値上がりが消費を減退させないか。どちらも加工場の経営に響く問題だ」と困り顔だ。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)北海道貿易情報センターの相馬巳貴子所長は、現時点での道内への影響は限定的だとみるが、長期的には広がる可能性があるという。

 世界経済が落ち込み北海道へのインバウンドが減れば、観光業など輸出産業以外も打撃を受けかねない。相馬所長は「道内で注目が集まる半導体輸出を含め、もし本当に高額関税がかかるとなれば、アジアや欧州などの市場開拓努力が必要になる。最新の情報をアップデートしていくことも重要だ」と話している。【伊藤遥、本多竹志】

毎日新聞

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