<24色のペン>増えるインド人観光客、海外で求めるものとは?=松本紫帆
近年、インドで海外旅行への関心が急速に高まっている。インド政府によると、2023年のインド人の出国者数は約2700万人を記録。40年には3倍以上になるとの予測もある。各国がインド人観光客の誘致に向けて動き出す中、インドの人々は、どんな体験を求めて海を越えるのだろうか。
その一端を探ろうと、4月上旬、ニューデリーの商業地にある旅行代理店を訪ねた。
オフィスには従業員が6人。オンラインで旅行プランを提案する小さな代理店だが、ウェブサイトを見た客からの問い合わせは1日に40~45件に上る。昨年の2倍にあたるそうだ。
経営者のカランディープ・チャバラさん(37)は、「新しい体験をしたいと望む人たちからの問い合わせが非常に多いのです」と語り、旅行への関心の高まりを日々実感している。
現在インド国内では、空港の整備や国際線の新規就航が着々と進み、海外渡航の利便性は一層高まりつつある。インド外務省によると、有効なパスポートの保有者は24年時点で約9300万人に上り、14年の約5700万人から大幅に増えた。
インドの人々が海外に目を向けるようになった背景として、購買力のある「中間層」の拡大が上げられる。インドは経済成長が著しく、中間層以上は全人口の3割に達し、こうした人々が旅に出ているとされる。
一方、チャバラさんは、旅行がインド人にとって重要なライフスタイルの一部として定着しつつあると説明する。「これまでインドでは高価な車や家を持つことが成功の象徴とされてきました。しかし、今では『どこに行き、どんな体験をしたことがあるか』という経験が大切な要素になっているのです」と語る。
かつて海外旅行といえば社員旅行や研修がほとんどだったが、今は個人が自由に旅をアレンジするのが一般的だ。
行き先は、ドバイを擁するアラブ首長国連邦(UAE)が依然として人気を集める一方で、近年はタイ、シンガポール、マレーシアなど、東南アジア諸国への関心も20~30代を中心に高まっているという。予算は一般的な家族旅行の場合、4泊5日で20万ルピー(約34万円)ほどだ。
チャバラさんによると、観光客は、ビーチリゾートや風光明媚(めいび)な場所に滞在し、景色を楽しみながらリラックスした時間を過ごすことを求める傾向にあるという。1日に観光地を何カ所も巡るような「慌ただしい」プランは、今のところあまり好まれないそうだ。
牛肉を食べないヒンズー教徒やベジタリアンの人々にとって、宿泊施設などで食べ慣れた食事ができるかといった点も、重要なポイントになるという。
一方で、旅先を決める上で、最大の課題は査証(ビザ)の問題だ。
英コンサルティング会社「ヘンリー&パートナーズ」によると、現在、インド人がビザなしで訪問できる国・地域は58カ国にとどまる。
インド人は旅の直前に旅行先を決める傾向があるといい、今後は各国のビザ政策がインド人観光客の行き先を大きく左右するとみられる。
こうした中、ビザの要件緩和や広告に工夫を凝らすことで、インド人観光客を獲得しようという動きもある。
英誌「エコノミスト」によると、タイ政府は23年、インド人観光客のビザを免除したところ、直後にタイへの観光客が急増したという。UAEも誘致に積極的で、インド映画界の「ボリウッド」の人気俳優を広告塔に起用するなどして話題を集めている。
ちなみに、日本への関心度はどれくらいなのだろうか。チャバラさんは「日本のテーマパークや、着物を着るといった体験に興味を示している人たちはたくさんいます」と話す。それでも、インドからの距離や高額な宿泊費などがまだハードルになっているという。
かつては中国人観光客による「爆買い」が注目を集めたように、世界一の人口を誇る国からの観光客が世界各国に与えるインパクトは大きいだろう。インド人観光客を巡るどんなトレンドが生まれるのか、今後、注目していきたい。【ニューデリー松本紫帆】
<※5月3~10日は休載します。11日のコラムはニューヨーク支局の八田浩輔記者が執筆します>
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