「アジア最大級の犯罪組織」 カンボジアの華人系企業に包囲網

2025/11/23 09:00 

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 特殊詐欺の拠点とされるカンボジアで影響力を拡大してきた華人系企業に対し、国際的な取り締まりが強化されている。米司法当局は「アジア最大級の犯罪組織」と名指しして同企業の会長を訴追し、英国なども資産凍結に踏み切った。詐欺拠点の運営に関与し、巨額の収益を上げる一方、各国のダミー企業などを通じてマネーロンダリング(資金洗浄)を行っていたとみられている。

 カンボジアでは、中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」の下で都市建設や観光開発を進めた結果、中国企業や資金にとどまらず、犯罪組織も流入したとされる。こうした社会の混乱期に頭角を現したのが、2015年ごろに創業された「プリンス・ホールディング・グループ」だ。

 米司法省は10月中旬、グループのチェン・ジー会長を通信詐欺および資金洗浄の共謀の罪で起訴した。

 発表などによると、グループはカンボジアで少なくとも10カ所の犯罪拠点を運営し、未成年者に性的画像を送らせた上で金銭を脅し取る「セクストーション」や、ロマンス詐欺などで収益を得てきたとされる。拠点では、人身売買などで集められた人々を監禁・暴行し、強制労働させていたとされ、詐欺の被害は米国を含む世界各地に及んでいる。

 チェン氏はカンボジア国籍を取得した中国出身の37歳とされ、不動産開発をてこにグループをホテルやカジノ、銀行などを傘下に抱える国内有数のコングロマリット(複合企業)に成長させた。フン・セン前首相の私設顧問を務めるなど、短期間でカンボジア政財界の重鎮にのし上がった人物としても知られる。

 「人々の苦しみの上に築かれた詐欺帝国の首謀者だ」。アイゼンバーグ米司法次官補はこう述べて、チェン氏を糾弾した。米当局は米国内に保有されていた約150億ドル(約2兆3300億円)相当のビットコインを押収したが、チェン氏の行方は分かっていない。

 米財務省と英政府もチェン氏や関係者に制裁を科した。英紙タイムズは、内部告発者の話として、チェン氏の純資産が600億ドル(約9兆3000億円)にのぼると報じている。ロンドン中心部にオフィスビルを構え、邸宅も購入。現金や高級腕時計、クルーザーなどの賄賂を使い、カンボジアの政権幹部や中国の情報機関とも近い関係を築いていたという。

 こうした動きに他国も追随し、シンガポールや台湾でも関連する不動産や銀行口座などの資産が凍結された。グループは11日、「会社やチェン・ジー会長が違法行為に関与したという見解を断固として否定する。申し立ては資産の不法な押収を正当化する目的で行われた」と声明で反論した。

 ◇日本にもグループ拠点

 日本国内にも、「プリンス・ジャパン」(東京都渋谷区)などグループ傘下の関連会社が少なくとも3社存在し、チェン氏が東京都港区の高級物件を住居として確保していたことが、法人登記簿などから確認できた。

 関連会社は一時、日本の元大使が会長を務める「日本カンボジア協会」にも法人会員として名を連ねていた。協会が23年にプノンペンで開催した国交70周年記念の花火大会では、グループが主要スポンサーを務めた。

 協会は10月、米財務省などの制裁を受けて会員資格を解除。退会届も受理しており、現在は「一切の組織的な関係はない」としている。【武内彩(バンコク)、小泉大士】

毎日新聞

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