北朝鮮から２０１９年に韓国に亡命したリュ・ヒョヌ元駐クウェート代理大使が、金正恩（キム・ジョンウン）朝鮮労働党総書記をめぐるエピソードなどをまとめた新著「金正恩の隠された秘密金庫」（東亜日報社）をこのほど発刊した。

　リュ氏はこの中で、正恩氏の娘、ジュエ氏の漢字表記を「主愛」と記した。

　リュ氏の妻の父、全日春（チョン・イルチュン）氏は、金氏一族の資金を管理する「朝鮮労働党３９号室」の室長を務めた。

　全氏は２０１５年９月、首都・平壌を流れる大同江（テドンガン）の遊覧船「ムジゲ（虹）号」の乗船イベントに出席。正恩氏も娘と共に視察した。全氏はジュエ氏を抱っこしたという。

　リュ氏は後日、全氏からこの時の記念写真を見せてもらった。裏面に「主愛お姫さまと共に」とあり、全氏が書いたという。リュ氏が名前の意味を尋ねると、全氏は「元帥さま（正恩氏）が『万人の愛を独り占めするきれいな娘になれ』という意味を込めて主愛と名付けたとおっしゃった」と答えたという。

　北朝鮮国営の朝鮮中央通信は１５年９月２８日、正恩氏がムジゲ号を視察したと報じ、大勢の党幹部らが同行する写真も配信した。全氏がジュエ氏と写真撮影したのはこの時だとみられる。

　リュ氏は、ジュエ氏がこの時点で「２歳半だった」とも記した。これが正しければジュエ氏は１３年３月ごろに生まれたことになる。

　ジュエ氏の名は、１３年９月上旬に訪朝して正恩氏と面会した米プロバスケットボール協会（ＮＢＡ）の元選手、デニス・ロッドマン氏が初めて証言した。

　一方で、２３年に韓国に亡命した元駐キューバ大使館参事官のリ・イルギュ氏は、娘の名を「ジュイェ」と指摘するなど、情報が錯綜（さくそう）している。「イェ」は漢字だと「礼」「叡」などがある。

　韓国の情報機関・国家情報院は、ジュエ氏が正恩氏の後継者候補との見方を示している。【ソウル福岡静哉】