コメの値段、聞いて立ち去った母子も 江藤氏辞任、農家らため息

2025/05/21 19:54 

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 「誰が大臣になっても同じだ」。江藤拓農相が辞任した21日、コメの価格高騰に苦しむ市民からは、軽はずみな発言に諦めの声さえ聞かれた。能登半島地震の被災地では、復興が遠のきかねない事態に、コメ農家がため息をついていた。

 大阪市内で米穀店を営む60代男性は「辞めなくてもよかったのではないか。謝って、より励んで、政策を前に進めてほしかった。誰が大臣になっても同じだ」と話した。

 コメの仕入れ量が減り、得意客のために確保しなければならないこともあって、店頭には在庫の一部のみを並べている。男性は「経営は厳しい」とこぼす。

 約1カ月前、幼い女児を連れた母親が「お米はありますか」と店を訪れたが、価格を伝えると、買わずに立ち去ったという。「コメを買ったことはない」などと江藤氏が発言したことについて、男性は「政治家は民をしっかりと守ること、食糧を行き渡らせるようにするのが一番の仕事だ」と憤った。

 創業90年の老舗米穀店を3月に閉店した京都府舞鶴市の松本泰さん(52)は「大臣を交代させることで(夏の)参院選を乗り切りたいということだろう。場当たり的にトップを代えても何の意味もない」と切り捨てた。

 松本さんの店はコメの価格が高騰した昨秋から、当初の予定より少ない量しか卸してもらえなくなり、次第に「回すコメがない」と断られるようになった。備蓄米も手に入らず、「米屋ですが、米ありません」と店頭に張り紙を出し、いったん店を閉じた。現在は新たな仕入れ先を開拓しようと、東北地方の農家らとのやりとりを始めている。

 政府の対応について「今は米価が下がるかどうかが焦点となっているが、本当に必要なことは国民の食を守るための長期的視点。そのためには農政を根本的に立て直す必要があると思う」と指摘した。

 大阪市北区のスーパーへ買い物に来ていた会社員の伊藤雄一郎さん(41)は「辞任は当然」と語った。「大臣が代わったところで長引くコメの価格高騰が収まるとは思えない。子どもに食べさせる分を節約するなどありえない。国民を守る政治をしてほしい」と求めた。

 石川県輪島市のコメ農家、山下祐介さん(39)は「消費者が苦しむ中で軽率な発言だ」と厳しい。山下さんの田んぼは2024年元日の能登半島地震で亀裂が入るなどし、昨年は10ヘクタールのうち2割しか田植えができなかった。昨年9月の豪雨では近くのため池が使えなくなり、今年の田植えは1ヘクタールのみ。復旧の見通しは立っていない。

 山下さんは「能登の農業が復旧、復興する大切な時期だ。大臣の辞任で遅れることだけは避けてほしい」と要望。新しく農相に起用される小泉進次郎氏については知名度の高さから、「選挙目的ではないか」といぶかしんだ。【長岡健太郎、塩田敏夫、根本佳奈、島袋太輔】

 ◇「国民感情を逆なで」自民府議も頭抱え

 夏の参院選を控え、自民党の大阪市議は江藤氏について「どうしてあんな発言ができるのか。参院選への影響はものすごくある。このままだと自民は負ける」と危機感をあらわにした。

 24年の衆院選で、自民は候補者を擁立した大阪府内15選挙区の全てで、日本維新の会の候補に敗れた。今夏の参院選大阪選挙区(改選数4)では候補者選びが難航し、正式発表には至っていない。一連の問題について自民府議は「悪気はなかったと思うが、国民感情を逆なでする言い方だ。自民党への支持が伸びない中、追い打ちをかける感じでマイナスにしか働かない」と頭を抱えていた。

 一方、日本維新の会の吉村洋文代表(大阪府知事)は21日の記者会見で「(発言は)とんでもないと思う。個人の問題というより、自民党の本質が明らかになったのではないか」との見解を述べた。そのうえで「官がコメの需給を調整しようとする政策の失敗を認めるべきだ。お米は日本の主食。生産の抑制から強化へかじを切るべき」と批判した。【高良駿輔、長沼辰哉、岡崎英遠】

毎日新聞

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