<ファクトチェック>「生活保護受給世帯の3分の1は外国人」は誤り SNSで誤情報拡散

2025/07/11 05:30 

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 生活保護を受給する世帯の3分の1は外国人が占めている--。今年3月ごろから、そんな外国人の生活保護を巡る投稿が交流サイト(SNS)上で散見されるようになり、外国人に関する政策がクローズアップされている参院選の公示直前にも広く拡散された。しかし、実際に受給しているのは全体の3%未満で、この投稿の情報は誤りだ。【稲垣衆史】

 ◇3月ごろから増えた投稿

 <生活保護世帯数って、165万世帯で外国人生活保護世帯が56万世帯。33%が外国人じゃん。3分の1が外国人ってどうなんだろ>

 X(ツイッター)などでは、こうした投稿が3月ごろから増えた。投稿とともに広く拡散しているのは、ウェブで3月17日に配信された記事とそのグラフを引用したものだ。

 記事は、2024年の生活保護申請が5年連続で増加し、過去12年間で最多に達したことを伝えたもの。

 生活保護を受給している外国人の世帯数(世帯主が日本国籍を持っていない世帯)が22年には56万8000世帯ほどで推移していたことを示したグラフも挿入されており、出典元とともに「数字は年間のべ総数」との注釈が付いていた。つまり、毎月の外国人の受給世帯数を12カ月分積み上げた数字だ。

 ◇誤った数字が拡散

 生活保護は原則月1回支給される制度で、厚生労働省が毎年公表している受給世帯数(確定値)も1カ月の平均値を基準にしている。

 厚労省によると、23年度に生活保護を受給した世帯数(23年4月~24年3月の月平均)は全国で165万478世帯で、このうち外国籍の人が世帯主のケースは、4万7317世帯だった。

 計算すると、生活保護を受給している全世帯のおよそ2・9%に当たり、指摘されている3分の1には遠く及ばない。22年度も約2・9%と同様だった。

 一方、拡散されている投稿の内容を見ると、全体の受給世帯数は約165万という1カ月分の数値なのに対して、受給する外国人世帯数の方は12カ月の延べ数(約56万)で対比されているため、外国人受給世帯の割合が30%を超えているという誤った数字が算出されていた。

 この誤った数字が拡散されたことで、冒頭に紹介したXの投稿など批判的な受け止めがネット上に広がったとみられる。

 ◇「3分の1」数字が独り歩き

 SNSの拡散で広く「根拠」として引用されたのは公益財団法人「ニッポンドットコム」が運営するウェブサイト「ニッポンドットコム」が配信したものだった。

 確認すると、一部で出回っているグラフや記事には、生活保護を受給している外国人の世帯数について、「のべ総数」と記した注釈部分がないものがあった。

 ニッポンドットコム編集部に取材すると、3月に配信後に読者から指摘があり、誤解を生じさせることから「のべ総数」という注釈を加え、4月に再配信したのだという。

 だが、SNSでは古い内容が更新されないまま広まったことで、「生活保護の3分の1は外国人」という数字が独り歩きしていったとみられる。

 ニッポンドットコム編集部は7月9日、経緯を記した上で「この記事を基に誤情報が出回っている」として記事を削除。「外国籍世帯の生活保護 総受給世帯の約2・9%」とする記事を新たに配信して、注意を促している。

 ◇ファクトチェックの判定基準は

 ファクトチェックは特定の主義主張や党派などを擁護、批判することが目的ではありません。社会に広がっている情報が事実かどうか調べ、正確な情報を読者に伝えるのが目的です。これは国際ファクトチェックネットワーク(米国、IFCN)が掲げる国際的な原則「非党派性・公正性」に基づいています。

 記事はNPO「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のガイドラインに基づき、チェック対象の情報について表の通りの基準で真偽を判定(レーティング)しています。

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